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壮一とリョウタは、高校で初めて出会った。
同じクラスですぐに意気投合し、壮一に同い年のミツミという恋人がいることも、リョウタはすぐに知らされた。
「壮一すげえな。クラスの中っていうか学年でも、彼女いる奴なんてそういないだろうが」
「たまたまだよ、幼馴染で。ミツミがいなければ、今でも俺なんかに彼女なんかできてないって」
ミツミは別の高校に通っていたが、携帯電話内に収めた大量の画像を、リョウタは飽きるほど見せつけられた。
四月の終わりには、壮一とリョウタは互いの部屋を行き来する仲になった。
「壮一、ミツミさんの家ってこの近くなんだろ」
「耳すませてみろよ。ちょうど今、犬の声が聞こえるだろ?」
「ああ? ほんとだ」
「あの犬がいる家だ」
「ち、ちっか。いいなあ。しょっちゅう会いに行けるじゃねえか。ミツミさんも一人部屋か?」
羨むように言うリョウタに、壮一が苦笑する。
「まあそうだけど、そんなにロマンチックな部屋じゃないんだよ。直線的っていうか、無駄なもんが全然ないんだ」
「いいじゃん、かっこいいじゃねえか、女子でそういうの」
「……リョウタ、『ちいさい秋』って童謡知ってるか?」
壮一が少しだけかしこまったのを、リョウタは見て取る。そのために、意図はくみ取れないままにも、幾分まじめな口調で答えた。
「ちーさいあーき、ってのだろ。さすがに知ってるぞ。それがなんだよ」
「二番知ってる?」
「二番ん? 聞いたことねえぞ、あんのかよそんなの」
「ある。けっこう暗くてな、主人公が曇りガラスの北向きの部屋の中で、うつろな目でミルク眺めてるみたいな内容だ」
「はあ?」
思わずリョウタは携帯電話を取り出し、適当に検索してみた。
「……マジだ。なんだこれ。三番まであんじゃん……ハゼ? って知らねえけど、なんか赤い木の葉っぱが風見鶏に引っかかってるのか」
「ああ。ミツミはな、その二番の歌詞みたいな部屋に住んでる。で、三番の歌詞がうらやましいんだとよ。赤い葉っぱを見てる女の子が」
「……何だか全然分かんねえけど。いやこれすげえ寂しい風景じゃん……まあちょっときれいっぽいけどよ。これの何が羨ましいんだよ?」
「そりゃあな――……」
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