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壮一の引き合わせで、ミツミとリョウタが初めて会ったのは、五月の半ばだった。
壮一の友人であるリョウタに、ミツミが会いたがったせいだった。リョウタは壮一と共に、ミツミの家を訪れた。
庭につないである犬に激しく吠えたてられて、リョウタが身をすくませたところに、玄関の戸に寄り添うようにして、ミツミが歩み出てきた。
「ごめんなさい、源次郎は体は小さいけど、知らない人には凄く吠えるんです……初めまして、リョウタさんですよね」
ミツミが名長い黒髪を揺らしておじぎする。
「あ、は、ハイそうっす。おい壮一、ミツミさんの家、こんなにでっかいのかよ。ほぼ屋敷じゃん」
「俺だって、いまだにちょっと気後れするんだよ。さすがに源次郎には吠えられなくなったけどな……」
「近所の人にも、うちのお庭に少し入っただけで吠えるんですよ。家族の他には壮一くんくらいです、吠えられないのは」
二人は、困り顔で笑うミツミに、彼女の部屋に通された。
リョウタは、壮一の話が誇張でなかったことを知った。
一階隅の、北向きの日当たりの悪い部屋で、窓は曇りガラスが嵌められている。
机やベッドなど必要最小限の家具が置かれているが、どれも装飾や華やぎとは無縁で、色合いも沈んで見えた。ミツミが牛乳の入ったグラスをうつろに見つめている姿を想像すると、あまりにこの部屋に似合いすぎて、リョウタは少し寒気がした。
「初夏だっていうのに、涼しいんですよね、この部屋。日が当たるのは朝だけで、太陽が昇って南にいくほどこの部屋は冷えていくんです。日没まで、全く日射がなくって。窓の外はすぐ土と下草だからじめじめしてますし」
確かに、部屋の中は妙にひんやりしている。ミツミも体温の低そうな、柔そうな体躯をしており、リョウタには彼女がどこか浮世離れして見えた。
窓の外には、裏庭がある。覇気のない木立と雑草が茂っており、湿った土がむき出しになっている。先ほどちらりと見えた玄関わきの立派な庭とは、まるで違う家の敷地のようだ、とリョウタは思う。
「リョウタさんのこと、よく壮一から聞いています」
「あーいや、俺なんてほんと壮一しか友達いなくて。ていうか俺も、めっちゃミツミさんのこと聞かされてますよ」
え、何を、とミツミが赤面した。
三人はすぐに打ち解けた。
この冷えた部屋は、まるで彼らのための隠れ家のように、奇妙な興奮と連帯感をもたらした。
その心地よさの中で、リョウタは、「俺も早く彼女欲しいっす」とおどけて言った。
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