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七月だというのに、北向きの部屋の中は、五月から変わらずに、うら涼しかった。
「待っていました」
瞼を閉じたミツミが、部屋の隅のベッドから立ち上がって、二人の少年を迎える。
壮一が、まだ部屋の入り口で立ち尽くしているリョウタの背中を軽く押して、促す。その時壮一は、リョウタの背の筋肉のこわばりを感じた。
「ミツミさん。俺は、」
リョウタが口を開いた。
壮一の体は緊張している。
ミツミの両親は、まだ源次郎の葬式から戻っていない。
ここにはこの三人だけしかおらず、止めに入る大人も道具もなく、ミツミが望んだとはいえ、何が起きてもおかしくない状況であることを壮一は理解していた。
壮一は、最悪、リョウタが逆上してミツミに襲い掛かることさえ想定した。
それを防ぐために、静かにリョウタの前に出る。
しかし。
「ごめんなさい」
リョウタが言葉をつづける前に、ミツミが深々と頭を下げた。
「え、」
リョウタが絶句する。壮一も、思わず思考が止まった。
「ごめんなさい。私の目が見えていたら、リョウタくんがそんなことをしなくて済んだかもしれなかった」
皮肉でも、自虐でもない。
ミツミが本心からそう言っていることは、壮一にも、リョウタにも痛いほど伝わってきた。
――何を言っている、筋違いにもほどがある――と壮一は胸中で叫ぶ。
しかし、同時に気づいていた。
リョウタの体から、憑き物が落ちるように、目に見えて緊張が抜け落ちていく。
これで、リョウタの自殺はひとまず防いだ。これで、この男は死ねなくなった。
ミツミは、そのためにリョウタをここに呼んだのだ。
――壮一くん、本当にリョウタくんが犯人だとしたら、彼は自殺してしまうかもしれない。罪の意識というのか、良心の呵責で。
悲痛な声で、そう訴えた時のミツミの顔を、壮一は思い出す。
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