とある、夏の日

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とある、夏の日

 夏真っ盛りの炎天下。夏の空気が頰を撫でる。砂浜の蒸し暑い風が髪を靡かせる。潮風に混じり、鉄のような匂いが鼻につく。この不快な異臭にも慣れてしまった俺はもう狂っているのだろうか。汗で頬に髪がピタリと張り付く。不快感を払いたくても払えない。何故なら手が動かないから。否、手だけではない。首から下を一切動かすことが出来ない。身体を捻ろうにも、砂の圧迫感の所為でままならない。  首から下が砂に埋まる。こんな経験はもう一生ないだろう。昼寝をするように、横に寝転がっているわけではない。今の俺の体勢は、体が縦になっている。立っているのに、首から下だけが前後左右から粒子の圧迫感に押し潰されそうなのだ。砂浜で百七十センチメートル分の穴を掘らないと今の俺のような体勢にならないだろうに。 ギャグアニメでしか見たことないような斬新な拘束だが、俺は笑う暇がない。
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