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「なぁ…紗季、聞いてる?」
突然、耳馴れた声がして…私は我に返った。
ダブルベッドの傍らに、智也の温もりを感じる。
逞しい腕が延べられて──
私は忽ち、彼の裸の胸に抱き竦められた。
残業なんて真っ赤な嘘。
このところずっと、私は、智也のアパートに入り浸り、こうして蜜月を過ごしている。
…もう、付き合って一年が経つ。
二階堂智也は、出世頭の呼び声も高い、営業部のエース。
私は、そんな彼が自慢だった。
「ねぇ、紗季。考えてくれた?NYの事。」
「…うん。考えてる。」
「まだ迷ってんの?? 俺と向こうに行くのが、そんなに不安?」
「ううん、まさか…」
私は、彼の胸に頬を擦り寄せた。
智也は、NY支社への栄転が決まっている。
一度向こうに行ったら、少なくとも5年は帰って来ない。
彼の仕事振りが評価されたのだ。
勿論、嬉しい───だけど。手放しで喜べない自分がいるのも、また事実だった。
このまま離ればなれになるのか…と、半ば諦めていたから。
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