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機上の人となって…
私は改めて、生まれ育った国を見下ろした。
蒼く澄んだ空。
雲の隙間から覗く街並みが、まるで精巧なジオラマの様に見える。
私は──軽い既視感を覚えた。
…遠い遠い昔。
やはりこんな風に、空から街を見下ろした事がある。
あれは、今から二つ前の人生…
私は、太平洋戦争の真っ只中に、『男』として生を受けていた。
国を守る為に徴兵され、やがて空軍士官となった私に、或る日下った出撃命令──。
日の丸を背負い、覚悟を定めて、私は戦火激しい最前線に赴いた。
そうして…若い命を空に散らしたのである。
あの時。
最期に視界の片隅に映した風景が…やはり、雲間から見下ろす遠い街並みであった。
享年、28才。
花も実もある人生を、闘いの中に投げ打った曾ての『私』…
悲しむ父母の顔も知らないまま、その意識は闇に堕ち──私は、再び転生の輪に還ったのである。
繰り返される悲劇。
いつの世も、私は両親を悲しませてばかりだ。
「紗季、疲れたんじゃないのか?」
突然、智也が話し掛けて来る。
心配そうに覗き込む眼差しに、『平気』と答えて笑顔を向けると、彼は益々、眉をひそめて私を見た。
「本当に?無理すんなよ?」
「うん。大丈夫。」
「紗季─…」
智也が、私の肩を抱く。
「幸せになろうな?」
「…うん。」
甘やかな温もりが、別れの寂しさを拭い去る。
新しい国。
新しい街。
新しい人生のステージを目指して、私達は空を翔けた。
揺るぎない幸せだけを信じていた。
──まさか。
このフライトが、人生の片道切符になるなんて… これっぽちも考えていなかった。
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