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【Ⅲ】死者の書。
悲鳴、叫喚、爆音と激しい揺れ。
斜めに機首を下げた旅客機は、物凄い速さで落下していた。荷物が転がり、翼の一部が破損する。
突然襲ったエンジン・トラブルは、私達乗客全員の夢と未来を奪った。
「紗季!」
智也が私を抱き締める。
見詰め合う視線は、濃い絶望の色を帯びていた。
急降下する機体。
抱き締める腕に力を込めて、私達は、互いの熱を分かち合う。
最期の一瞬まで、決して離れる事の無いように…
彼の首筋に口付けながら、私は死を受け入れた。
「智也…大好き」
──それが、今世の最期の言葉だった。
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