柵を越える話

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 今日、私は初めてあの高い柵を越えた。 物心ついた時から知っていたあの柵。 越えることなど考えもしていなかったあの柵。 あの柵を、今日、初めて越えることが出来た。  この柵1つを越えたところでなんの意味もないのかもしれない。 この先にはまだ無数の柵があるのだから。  この柵を越えることになど、何の意味もないのかもしれない。 私も昔は、なんと非合理的なことをしているのだろうと思っていたのだから。  だが、今なら少しわかる気がする。 この柵を越えていった人たちが、なぜそんなことをしていたのか。 答えは柵を越えた先にしかないのだ。 やってみなければ、何も始まらない。  まだ、先は長い。 私にこの全てを越えることが出来るのか、想像もつかない。 ましてや、この道を進んでいった偉大なる先人たちに追い付くどころか、その背中を見つけることすら難しいのかもしれない。  だけど、こんなところで止まっていられない。 柵を1つ越えただけで見える世界があったのだ。 その全てを越えた先には、一体どんな世界が待っているのだろうか。 今はまだ、1つ越えることで精一杯だが、いつか、その悉くを乗り越えて見せよう。 そしてその先にあるなにかとやらを見つけてやろうではないか。  そう、これは。 短距離走に子供の頃から触れてきた少女がハードル走に転向する物語。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加