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「動くよ?」  オレの下の彼女が小さく頷く。痛みを耐えているその顔に興奮する。そのままゆっくりと腰を動かそうとした。彼女がオレにしがみつくように抱きついてきた。痛みを堪えるためか、顔を頭に埋めてくる。 「あ・・・」  彼女が、オレの耳元で、幸せそうな声で呟く。 「同じ匂い・・・」  オレの動きが止まる。心臓が冷えていくような感覚。彼女の表情を思わず盗み見る。さっきまでの、あの、眉を潜めて痛みを耐え忍ぶ、あんな表情じゃなかった。とても幸せそうな表情。  彼女の髪からは、「オレのもの」という彼氏のシャンプーの匂いはしない。その匂いを纏っているのは、誰でもないオレだった。 (完)
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