シャンプー

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 できるだけ内心の動揺を見せないように。本当に何でもないように。努めて冷静さを装いながら、問題に取りかかろうとする。すると、ジッと彼女がオレの顔を見てきた。 「今、逃げたでしょ?」 「・・・逃げてない」 「嘘。絶対逃げた」  ニヤリという表現がぴったりな彼女の悪戯っ子の顔。ふわりふわりと香る柑橘系の香り。オレンジの匂いに近い気がする。多分、オレの動揺も嘘も全部お見通しなんだろう。  彼女には、彼氏がいる。  高校生の自分たちには遠い存在に思える、大学生の彼氏だ。  彼氏のシャンプー。  その言葉が、何となく意味していることも分かる。  「彼氏のシャンプー」という単語だけで動揺しているなんて思われたくない。
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