眠れ、赤き馬

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 二人目の男は、胸に届くほど立派な髭をした、とても図体の大きな者であった。青龍偃月刀を手足のように操り、立ちはだかる敵をまるでお手玉のようにバタバタと吹き飛ばしていく武勇、かつての天下無双の主にさえ匹敵すると赤兎馬は思った。  実は、主となる前から両者には面識がある。  かつて敵として対峙した虎牢関。  その男ともう一人、虎髭をたくわえ、一丈八尺の蛇矛を操る強者。  二人組にて打ちかかって来たとき、あの最強の武を誇る前の主が五分の勝負にまで持ち込まれた。  赤兎もいつになく本気で、その逞しい四肢による優れた体幹を生かし、普通の馬では到底出来ないような切り返しで何度も馬主を助けた。  故に、暫く時が過ぎても記憶に残っていたのだ。  その男との思い出を語るのなら、やはり千里を駆け抜けたあの時か。  赤兎馬は想起する。  後に軍神とまで呼ばれる男は、かつての主とは対称的に、仁義や恩を重んじる性格であった。  が、同時に非常に我の強い性格だったとも言える。  己の忠義を貫くため、立ちふさがる五つの関所を突破し、慕う兄者の元へ一目散へと自分を駆けさせる。  なんと我儘な男なのだろう。  赤兎馬は辟易するどころか、徐々に男を気に入っていた。  最速の馬に乗る男なのだ、このくらい自我が強くて、腕が立つ方がいい。 風を切って、大地を走る。  赤兎馬は久方ぶりに心を躍らせた。
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