眠れ、赤き馬

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 やがてその男も、自分の与り知らぬところで命を散らし、先に旅立っていった。  もはやこの世に面白いことは残されていない。  寂寥感が赤兎を支配する。  現在引き取った将は、赤兎の力を持て余すのか、決して全力を出させることはなかった。  途端に、全てがつまらなくなった。  人馬一体の過去は露と消え、もう心を熱くさせてくれる将はいない。  ただ、最速である誇りだけが、他の馬と同じように家畜へと堕ちることを拒んだ。  だからこそ、もう干し草を口にすることはない。  糖質が足りなくなり、ぼんやりする頭は次第に重さを増していく。  赤兎はゆっくりと、はるか地平の先を見つめた。  夕日は既に、西の山へと隠れている。  暗い闇が広がっていく。どこまでも深く、飲み込まれるような闇だ。  かつて沸騰するほどに燃え滾った血潮が、今はただ冷たい。  気怠さに身を任せ、赤兎馬は静かに瞳を閉じる。  朝を迎える頃、その見事な赤色は、次第にただの黒へと変わっていった。
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