<第二十五話~報われる時間~>

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 出会ってから、どんどん理音は喋る数も増え、ころころと表情も変わるようになっていると思う。きっと、これが彼の元々の性格なのだろう。 「そろそろ祭も始まってる頃だし、行くか?出店全部回る頃には花火も上がり始めてるだろ、八時からって話だし。アオ、今の時間帯なら軽装で外に出ても大丈夫か?」  民宿の部屋は全て和室になっていて、今自分達が泊まっている部屋も例に漏れない。ガラガラと障子を開き窓の向こうを見れば、昼間よりかなり涼しくなった風が吹き込んできていた。  それでもまだ、アオの故郷と比べると気温は非常に高い。フード付きの服を着て歩いた方が無難ではあるだろう。 「……日差しの心配はないが、まだ厚着をした方が良さそうではあるな。服の中に魔法で冷房をかけないと、長時間歩くのは厳しそうだ」 「そか。……よし、じゃあ行くか」  貴重品と飲み物、タオルだけを入れた手提げバッグだけを持って、理音が立ち上がる。出かける時、自然と差し出される理音の手を――アオはそっと握り返した。  彼はどういうわけか、人が多い場所に出かける時にアオの手を握りたがる。そしてちょっとしたところに行く場合も殆ど離したがらない。何か理由があるのは明白だった。 「なあ理音。理音は人ごみが苦手なんだろう?」  それが何故であるのかは、未だに自分は知らされていない。  知りたいとは思うけれど、無理に教えて欲しいとは思わない。理音が何かを怯えているように思うから、尚更に。 「私と手を繋いでいると、少しはその人ごみも……理音にとって、楽になるのか?」  だから、これくらいの確認は――許して欲しいと思う。こんな小さなことだけでも、彼の役に立てているのだとしれたなら。それだけで、アオにとっては限りなく大きな意味を持つのだから。 「……ああ。お前と手を繋いでると、怖くないんだ。不思議とさ」 「そうか」 「そうだ。だからさ、その……」  理音はアオを、友達だと言ってくれた。それならばアオにとっても理音は友達だ。  記憶があちこち欠落し、誰にも心許せる環境になかったであろうアオの――きっと、今存在する世界で、否銀河で唯一の友達が、彼。 「あとで、ちょっと聞いて欲しい話があるんだよな。びっくりするかもしれないけど」  まるで告白でもするかのようにかしこまって言う彼に、ついついアオは笑ってしまう。  一秒でも長く、この奇跡が続けばいい。きっとそれだけで、これから先にどんな悲劇が待っていても――未来を耐える力になると、そう思えるのだから。
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