<第二十七話~繋ぐ手の真実~>

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「……気持ち悪いって、思ってくれてもいい。ずっとそう言われてきたから、慣れてる」  アオの顔を見れない。ちゃんと告白すると決めたのは、自分自身のはずなのに。 「普通になってくれって、母親には何度も言われた。今でさえ力はだいぶ制御できるようになったけど、それでも近づけばそいつの感情は大体流れ込んできちまうし、眼を見ればある程度の記憶さえ読み取れちまうんだ。そのたびに倒れそうになって、人の嫌な面が見えて嫌いになって、自分自身のことも嫌で嫌でたまらなくなって……。子供の頃はもっとひどかった。眼を見なくても、周りの記憶が見えてしまうこともあって……正直よく発狂しなかったもんだって思うよ」 「では、貴方のお母さんとお父さんがいないのは……」 「そんな俺に失望して、母親はノイローゼ。父親はアル中。俺のせいで家庭崩壊したってのに、無理心中で俺だけ助かっちまった。練炭炊いてんのに後部座席の隙間塞ぎ忘れてんの馬鹿だよな。……結局俺は、一人で生き残った。一番、生き残る価値なんかなかったってのに」  どうして生きているんだろう。何度もそう思った。けれど自分で死ぬ勇気さえ持てないほどに理音は臆病な人間で。ズルズルズルズル、生き延びてしまって結局今に至るのである。  少し絵が描けるだけで、一体何だというのだろう。自分レベルのクリエーターなど何人だっている。珍しくもなんともない。代わりはいくらでもいる。自分でなければいけないなんて、そんな仕事は一つもなかったに違いない。 「イラストを仕事にしたのは、絵を描く時だけは嫌なことが忘れられたのと……他の仕事よりも遥かに、人と顔を合わせずにすんだからだ。人の眼を見て話すことも、至近距離に寄ることもできない人間が、普通の会社務めなんてできるわけないだろ?」  在宅ならば、ストレスからは最大限逃げることができた。一人で暮らすには広すぎる家だったが、それでもローンがなく家賃もいらない持ち家は有難い存在であったことは間違いない。相続税で多少持っていかれはしたものの、親の遺産も多少程度にはあった訳で。  それでも一人暮らしに必要なものは買わないといけないゆえ――コンビニや、時々出かけざるをえないホームセンターやスーパーは、苦行以外の何物でもなかったけれど。
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