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「これで、本当に良かったのですか、女王様」
玉座の間において、膝まずく男が一人。
エスメア・トールメイは女王に問いかける――まだ戦いの名残が残る、汚れた軍服のままで。何よりも優先すべき女王陛下への報告をこなした後に。
「結局私達は、何一つ取り戻すことができませんでした。お世継ぎも、ロックハートも兵器も何もかも、全て」
そして、挙げ句大量の怪我人を出して退いてきたのだ。いくら死者がいなかったとはいえど、戦果としては最低のものであったことは間違いない。
いかようなお叱りも受けようと、そう思っていたのだ。たとえそれが、エスメア自身の心に従った結果であったとしても。
「顔を上げなさい、エスメア」
しかし、リアナの声はひどく穏やかなものである。まるで何か大切なものを見つけて吹っ切ってきたかのように。
「何一つ取り戻せなかった?そんなことはありません。貴方は一番大切なものを取り戻してきてくれたではありませんか?」
「一番大切なもの?」
「そうです。……テラの民の、人としての心を、です」
彼女は少し寂しげに微笑んだ後――強く、強く遠い彼方を見据えた。これで良かったと、まるで確信しているかのように。
「私はあの方を愛しています。これからもきっと愛し続ける。だからこそ。……次に迎えに行く時は。私が本物の平和の女王として、胸を張れるようになった時であるべきです。もう二度と、当たり前のように誰かが傷つくことのない、そんな世界を作り上げることができた……その時に」
まだこの世界には、厚い雲が垂れ込めたまま。
しかしいつかは、そこに天使の梯子ができ、やがて青空が顔を覗かせてくれる時も訪れるだろうか。
本物の女王が、未来を信じて戦い続けたのなら。
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