<第五話~運命を握る者~>

4/4
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
 ***  ああ、どうしてこんな事に。惑星ファラビア・テラの陸軍大佐であるルイン・デペロトは、執務室にて頭を抱えることとなった。  女王陛下の機嫌は最悪に近い。まだ幼いとはいえ、ファラビア王家の血を継ぐ彼女の身体能力は相当なものである。部屋は一瞬にして嵐が十回見舞ったような有様となった。彼女自身は泣き疲れてベッドで眠っているが、起きたら再びハリケーンが吹き荒れることは目に見えている。それほどまでに、彼女のショックは大きかったのだ。  そう、確かにあの少年が、女王に対して大きな不満を抱いていることは誰の目にも明らかなことではあったけども。それでもまさか、輸送船の一部を強奪して惑星外に逃げてしまうなど、一体どうして予想できようか。  どうやって、この城の厳重なセキュリティを突破したというのだろう。確かに彼は、科学者として優秀な頭脳を持っていたし、極めて高い戦闘能力を持っていることも否定はしない。しかし、此処は、銀河最高の軍事惑星であるテラの星、その中でも王宮はもっとも堅牢な守りを誇っている場所であったはず。入口出口は勿論、庭も、それから上空でさえも絶えず監視用ドローンが飛び回り、侵入者はもちろん不法な脱出者も見逃さないように見守っていたはずなのだ。  原因をきちんと突き止めなければ、仮に少年を連れ戻したところで同じことが繰り返されてしまう。ああ、自分が大佐に昇格直後にこのようなことになるなんて――とルインはため息を吐くしかない。  どこまで彼は、テラを引っ掻き回せば気がすむのだろう。確かにあの悲惨な境遇とテラが彼にしてきたことを思えば――大人しく従いたくない気持ちもわからないはなかったけども。 「ルイン大佐!失礼します」  バタバタと部下の一人が駆け込んでくる。ファラビア人特有の褐色の肌に眼鏡をかけた細身な青年は、びしり、と硬すぎるほどの敬礼をしてみせた。  ルインが最も信頼する部下の一人、エスメア・トールメイ少尉である。 「ロックハートの脱出ルートがおおまかに特定できました。どうやら、協力者が数名いたようです」 「協力者……まさかと思うが」 「そのまさかですね。ジョディ・メイリー軍曹他数名。色仕掛けと金で完全に懐柔されていた模様です」 「ああもう……!」  どうして自分達の種族はこうなんだ、と思わずにはいられない。特に王宮の守りを任されるような上級階級。なんとまあ、小児趣味の阿呆が多いことか!女兵士のジョディなど、かなり生真面目な性格であり今までの戦績も非常に優秀であったクチである。いくら誰かさんが魅惑的な少年であるからといって、簡単に懐柔されることなどなかろうと信じていたというのに。  そもそも、ロックハートは昔からそうなのだ。閉じ込めようと封じ込めようと、見張りを魅落としては自分の味方へと引き入れてしまう。巧みな話術と色仕掛けの技術は、小児趣味の男女共に有効であるせいで本当に厄介極まりない。 「おまけに、ハッキングの技術もありますからね。……格納庫のパスワードも突破されていた模様です。まだ宇宙船の追尾には時間がかかるようですが……いかがなさいますか、大佐」  不安げに指示を待つエスメア。そんなもの、決まっている。いくらロックハートが――同情の余地のある人物であったとしてもだ。けして、このまま別の星に逃がしてしまうわけにはいかないのである。  彼はこの惑星の宝を、二つも持ち逃げしてくれているのだ。 「どんな手を使っても、連れ戻せ」  自分達の未来は、あの少年にかかっていると言っても過言ではない。  何故ならこの惑星は。あの少年の力がなければ――近い未来、確実に滅ぶ運命にあるのだから。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!