<第六話~彼の名前は“アオ”~>

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「えっと……」  少年は少し困ったように眉を下げて、告げた。 「その、間違っていたら申し訳ないとは思ったのだが。これは、早く食べた方がいいと思うのだけど……」  彼の目の前には、並べられた箸と――お湯の入ったカップラーメン。もしや、と思って理音がアオを見ると、彼はこくり、と頷いて言ったのだった。 「地球の、料理の仕方はあまり知らなくて。ただこれだけは誰かに聞いたことがあって覚えていた。お湯を入れるだけで作れる、というから。……もしかしたら朝に食べるものではなかったのだろうか?」 「え!?い、いや全然いいけど!俺朝もカップラーメン食べるけど!……お前、これ作っておいてくれたのか?しかも……まだ麺ほとんど伸びてないし」 「貴方がいつも朝七時に起きてくるというのは知っていたから」  一人分のカップ麺を用意して待っていてくれた彼は、少し自信なさげに告げる。 「昨夜、一度部屋に入れて貰った時に、目覚まし時計が七時にセットされていた。壁に、一日のスケジュール表も張ってあった。貴方はとてもマメな性格なのだろう。それを見て、朝食の時間にあわせて作るならこれくらいの時間がいいだろうと思ったのだが、少し早くなってしまったかもしれない。すまない」 「す、すまないも何も!あ、ありがとう、嬉しいよ」  一人分しか作られていない理由は明白だった。目の前の彼の、昨日の少食ぶりを思い出す。明らかに半分も御飯を食べられていなかったのに、それでも“いつもの倍は食べてしまった”と言っていた彼。下手をすればあれは一食の食事量ではなく、一日の食事量なのではないか?と理音は思っていたのだ。非常に低い体温を保てばいい分、必要とされるエネルギー量が極端に少ないのが彼の種族なのではないか、と。ならばカップ麺を二つ作ったところで、彼が一人分食べきれないのは明白である。  というか、さっきから感じるのは申し訳なさそうな感情ばかり。自分がそれを勝手に食べる、なんて選択肢はまったく思い浮かばなかったのだろう。 ――……俺が起きる時間がわかってたから。先に起きて、作って、起きてくるのを待っててくれたのか。  朝が弱いタイプでなくて本当に良かった俺、と思うと同時に。当たり前のようにしてくれたその気遣いが、心底嬉しくてならなかった。  新しいお湯を沸かしてから作った方がいい、ということは知らなかったのだろう。昨日の夜沸かしたままのお湯は少し温かったが、それでも初めて人が作ってくれたカップラーメンは最高に美味しかった。もう何百回何千回食べたかわからない味である。それなのに、いつもとこんなにも舌に感じる旨味が違うと感じてしまうのはどうしてだろう。
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