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ただし、と彼は少し苦い顔になる。
「それは、地球人でいうところの、点滴だけで生き延びるようなものに近い。……点滴さえしていれば食べ物を食べなくても問題ないとして。貴方達はそれで満足して生活することができるか?」
「あー……確かにそれはない、な」
「だろう?私達も同じだ。食べる量は少ないが、それでも結構味には拘る。その点、このカップラーメンはなかなかのものだったと思う。地球には美味しいものが多いと聞いた覚えあがるが本当だったのだな。素晴らしい」
そう言いつつ、アオは空っぽになったカップラーメンのカップをくるくるとまわして熱心に文字を読んでいる。翻訳デバイスをつけているというが、それがあると会話のみならず文字の方もしっかり訳して貰えるということなのだろうか。だとしたら非常に便利だ。
今の地球にも、翻訳機能のついた機械やアプリなどは存在している。ただし、正常に違和感なく会話ができるレベルとは程遠いのが実情だ。英語一つとっても、日本語に変換した途端文節がしっちゃかめっちゃかの文章ができあがるのは珍しくもなんともない話である。
――科学技術の方も今の日本……つーか地球より大幅に発展してるっていうのは、間違いない話なんだろうなあ。
それがあったら外国語の勉強をする必要もなくなる。そして外国人とのメールのやり取りも恐ろしく簡単になるのになあ、と理音は少々遠い目になる。
残念ながらというべきか今の仕事では、外国からの依頼を受けるということもゼロではないのだ。いや、仕事を選り好みできるような状況にないのはわかっているけども。今のところ英語だけなので、辞書片手に悪戦苦闘すればギリギリ返信できなくもないが――今後それ以外の言語で対応を要求されたらどうしてくれよう、と思っているのが本心なのである。
北京語とかならまだいい。韓国語やアラビア語なんてものが来てしまったら、自分には完全に模様にしか見えないのである。万が一そんなものが来てしまったら、ごーぐる先生のはちゃめちゃな翻訳を見て、英語で返信するしかないというのが現実だった。
「……ただ、一番美味しかったのは、これではないな」
一通り眺めて満足したのか、アオはコトリとカップをテーブルに戻した。
「貴方が昨日作ってくれた卵焼き。あれは絶品だった。あんなに美味しいものは今まで食べたことがない」
「ま、マジで?いや普通の卵焼きだけど……その、しかも俺の卵焼きは結構しょっぱいし、美味しくないって言われたし……」
「誰にそんなことを?もしそんな人間がいるのなら、その人物の味覚が狂っているとしか思えんな」
「……お前実は結構モノをはっきりぴっしり言うタイプか実は?」
思わずツッコミを入れてしまったが――理音としては、正直嬉しくて顔がにやけそうになるのを堪えるので必死であったりする。
美味しくない、と言ったのは母親だった。多分あれは卵焼きどうのというより、息子の問題に頭を抱えてノイローゼ気味になっていたせいでもあるのだろうけども。
母を喜ばせたくて作った卵焼きは、捨てられさえしなかったものの少ししか食べて貰えなかったのだ。彼女ははっきりと美味しくない、と無表情に言い放った。塩気がおおすぎてしょっぱいと。もっと甘くなければいけないと。
いや、それだけなら普通の意見であったのかもしれないが、一番ショックであったのは。
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