19人が本棚に入れています
本棚に追加
本当はこんなに疲れきった状況で、外に出ることさえしたくはなかったのである。が、理音の仕事は機構戦士エルガードの件だけではないわけで。うっかり消しゴムが一個なくなっただけでも、即座に買いに出ないと支障を来すのは間違いないことだった。
そもそも一人暮らしなのだから、食料品もある程度自分でなんとかしなければならないのである。今のところ金には困っていないので、必ずしも料理をしなければならないということもない。弁当を買うだけでもなんとかなる、というのは非常にありがたいことではあったのだが。
「合計1020円になります。お弁当、あっためますか?」
「いや、いい、です……」
女性店員の明るい声と食い気味に、自分自身の暗くてどんよりした声が重なる。きっと彼女も、目の前のコイツ根暗で気持ち悪いとでも思っているのだろう。髪の毛は最低限しか切らないので中途半端に伸びているし、前髪を伸ばしているので顔も半分しか見えていない状態。おまけに、何年も同じTシャツをローテーションで着まわしている。ファッションセンスも皆無。しかも極端な猫背。
アニメオタクか何か、あるいは引きこもりか何か。それとも、犯罪者予備軍だ、とまで想定されているかもしれない。
嫌だな、と理音は思う。思っても、だからどうにか出来るわけでもないのだけれど。なんといっても自分は――。
「はい……」
鬱々としながら、千円札一枚と十円玉二枚を青いトレーに乗せる。そして袋に入れて差し出された弁当その他を受け取ろうとした時だ。
――!!し、しまった……っ!
やらかした、と思った。思わず見てしまったのだ――自分に弁当を渡そうとする、店員の顔を。
正確には――こちらを見る、彼女の眼を。
「――――っ!!」
茶色く染めた長い髪の、若くて綺麗な店員だった。少々口紅の色が濃すぎてそれだけはセンスがないと感じるが、多分普通に見るだけなら十二分に“美人だなあ”で済む感想であっただろう。
しかし、理音の場合はそれだけですまないのだ。茶色のカラーコンタクトを嵌めているであろう瞳に映った己の姿。眼があった瞬間、理音の頭に流れ込んできたのは――彼女の怒涛のような思考だった。
最初のコメントを投稿しよう!