<第十話~卵焼きの時間~>

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「さて、ここからがちょっとコツがいる。棒状態になった卵焼きがちゃんと全面くっつくように転がしつつ、焦げないように火加減は調整するように。味付けに醤油を入れたから油断すると焦げるんだよな。……で、棒状態の卵焼きをフライパンの一番奥側に寄せると、箸で持ち上げてその下に残った生卵を流し込むんだ」  勿論、今度もフライパン全面に卵が広がるように気をつけつつ、さっきのように泡ができたら潰して抜いていく作業も必要になる。ある程度棒状態の卵焼きと流し込んだ生卵が固まってきたら、棒状態の卵をこちらにどんどん倒して転がす作業に入るのだ。  この時、生卵が半ナマ状態すぎても、固まりすぎていてもうまくくっつかないので、注意が必要である。 「こうやって転がして、またさっきみたいに全面が綺麗にくっついて焼けるまで調整すれば。……ほら、こんがりちょうどいい焼き目ができた、卵焼きの完成ってわけだな」 「わあ……!」  目を輝かせるアオ。ただの卵焼きごときでこんなに感動してもらえるとは、こちらも作った甲斐あるというものである。  まだアツアツの卵焼きを皿に移して、あとは少し冷めたら食べやすいサイズに切って完成というわけだ。 「簡単だろ?次はアオも作ってみてくれよ。俺が試食してやるから」 「ああ、やってみたい。面白そうだし、もっと理音の手助けができるようになりたい」 「……わかっちゃいたけどお前、いいやつすぎるんでねぇの……?」  確かに、アオは理音の家に居候している立場になるのかもしれないが。そもそも、理音にとってアオが得体の知れない相手であったならば、アオにとっての理音だってきっと同じであったはずなのである。なんせ、見知らぬ異星人であるのはお互い様なのだから。 「気になってたんだけど。なんでお前は、そんなに俺を信用するんだ?お前にとっての俺も異星人だし、会ったばかりなのにさ」  この際だからストレートに訊いてみることにする。その途端、綺麗に固まるアオ。これは、全く想定していない問いかけが来てフリーズしたパターンだなと判断する。  なんとなくわかってきたこと。想像していなかった問いかけが来ると、この少年はすぐにキョトン顔で固まって動かなくなるのである。
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