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『あーうざいうざいめんどくさい。早く就業時間終わらねーかな、なんでこんだけ大変なのに時給千二十円なんだよマジ笑えるっつーかもう笑う気にもなんねーつーか。ていうか冷房効きすぎなんだよもっと下げろつってんだよデブ店長、あたし以外のバイトのみんなも寒がってんじゃん空気読め空気。あんたがデブくて暑いだけだろ、あんた一人が我慢すりゃいいだけの話じゃねーか、あ、トイレ行きたくなってきたしほんとどうすりゃいいのマジ最悪。つかこいつも何なんだよオドオドしててキッモ。こういう奴が急にキレ出して包丁持って暴れたりすんじゃねーの、予備軍になりそうな奴は最初から全部刑務所にブチこんでおけばいいのになんでそうしねーんだよマジ無能。やだやだ、そういうのに巻き込まれるのはあたし達みたいなゼンリョーな一般市民だってのにさー、めんどくせーめんどくせーやだやだやだ』
綺麗な笑顔の下に隠している、どろどろと濁った凄まじい感情。
その瞬間、己はどんな顔をしていたことだろうか。恐怖で引きつっているのか、能面のように凍りついているのか。
「……?あの、お客様?」
店員の声で、ようやく理音は我に返った。弁当を受け取りかけた状態で固まって動かなくなれば、そりゃあ不審がられるのも当然だろう。
「す、す、すみません!」
理音はどうにかそれだけ絞り出すと、ひったくるようにして弁当の袋を掴み、早足でコンビニを飛び出したのだった。
――くそ、くそ、くそ!疲れてんのに何やってんだよ俺は、バカじゃねえのか!!
人と近づけば近づくだけ、その思考が流れ込んでくる可能性が上がる。
そして人の眼を見てしまうと“確実”に――その相手の感情を、ダイレクトで受け取ってしまう。
――子供の頃からだろうが、ずっと付き合ってきたんだろうが!今更失敗してんじゃねえよ、クソ野郎!
それが、日下部理音の能力だった。
同時に――理音が一人きりでしか生きられない、最大の原因でもあったのである。
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