<第十三話~エスメア・トールメイ~>

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「彼が持ち逃げした宝のうちの一つは……この銀河全てを一瞬にして破壊することもできる最強の兵器、“クライシス・コード”の設計図。そしてもう一つは……テラの星の未来を救うために、なくてはならぬかけがえのないモノです」  じり、とエスメアは一歩を踏み出す。 「かの者は明らかに、貴方のような一般人の手に余る存在です。貴方がどこの誰で、どのような生活を送ってらっしゃる方であるかは存じ上げませんが……これからも今まで通り、平穏無事に暮らしたいとは思いませんか?その平穏を守りたいなら、大人しく私達にロックハートをお引き渡し下さい。何も好き好んで、いつ爆発するかもわからぬ時限爆弾を抱え込む必要などないでしょう?」 「時限爆弾、だと……?」 「そうです。兵器などなくても、あの者はその気になれば簡単に惑星ひとつ壊すことができるほどの魔力を持っている。関わるべきではありませんよ。ただ、貴方を不幸にするだけの存在なのですから」  不幸にするだけ。その言葉を聞いた瞬間、思い出したのは初めて出会った時のアオの姿だ。息も絶え絶えに、何かから逃げていた彼。理音に助けを求めてきた彼。  そして、独りぼっちで生きていた理音のために――拙いながら早く起きて、朝御飯を作って待っていてくれた、彼。 ――今まで通りの、平凡な生活? 『その、間違っていたら申し訳ないとは思ったのだが。これは、早く食べた方がいいと思うのだけど……』 ――俺を不幸にするだけ?アオが? 『地球の、料理の仕方はあまり知らなくて。ただこれだけは誰かに聞いたことがあって覚えていた。お湯を入れるだけで作れる、というから。……もしかしたら朝に食べるものではなかったのだろうか?』 ――ふざけんな。……笑わせるな。俺のことなんか、なんも知らないくせに……!  確かに、自分はまだアオのことを殆ど何も知らないのだろう。彼に自分が見たことのない顔があっても全然驚かないし、そこに意外な真実が隠れている可能性もきっとあるに違いない。  彼が自分にしてくれたことを具体的に説明しようとすれば、それはきっと難しい。朝御飯を作って待っていてくれたとか、理音の名前を誉めてくれたこととか、理音の拙い卵焼きを大喜びで食べてくれたとか――こうして並べてみれば本当に些細で、端から見ればきっと“その程度?”と呼ばれることばかりだろう。
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