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でも。それでもだ。だからこそだ。――きっと理音の気持ちなんて、他の誰にもわかるわけがないと思うのである。
初めて眼を見ても、側にいても苦痛ではない存在に出会えた。初めて自分を、このしょうもない日下部理音という男を必要としてくれた。それだけで、どれほど理音が救われたかなんて。どれほど世界が見違えるほど変わったかなんて――生きていて良かったとさえ思えたかなんて、きっと目の前の男も誰も知らないのである。知らないからそんなことが言えるのだ――アオが、誰かを不幸にするだけの存在だなんて、そんな赦しがたい言葉を簡単に。
――平穏な生活?……そんなもん、要るか。誰かの眼にびくびく怯えて、誰かに嫌われたり憎まれるのが嫌で、誰ともぶつかったり触れたりできずに独りぼっちで。……そんなもん、生きてるだなんて言えるかよ。
アオは自分を不幸になんてしていない。
それどころか――もっとキラキラしたものがあるもしれないと、生きるのも悪くないかもしれないと、そう思わせてくれたのが彼だったのだ。
だって、アオは。あの子は。
――多分、生まれて初めて出来た……本当の友達だから。
だからその彼が望まないならば。こんな男にアオを引き渡すなど絶対に出来ない――するべきではない。
理音の腹は決まっていた。あとは、そのために――自分にはいったい何が出来るのか、だ。
「……あんたは、何も知らないんだよな」
「はい?」
「お喋りがすぎるってんだよ」
未知の異星人。しかし、覚悟されあるのなら――こんな自分にも出来ることは、ある。
理音は意を決して――男の眼を、真正面から睨み付けた。
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