<第十五話~誰かの為に歌うウタ~>

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 へとへとに疲れてどうにか自宅まで戻ってきたのは、ドローンに追いかけられ始めてから一時間近く経過してからのことだった。万が一を思って家に連絡を入れることもできず、きっとアオには心配をかけてしまったことだろう。彼のことだから、それでも不用意に外に出るような真似はしないだろうが、申し訳ないことをしてしまったことに変わりはない。  傷の手当やら、汗びっしょりでシャワーを浴びたいやら、そういうものは全部後回しである。とにかく早く顔を出して、アオを安心させてやらなければ。 「ただいま、アオ!ごめん、遅くなっちまった!!」  理音は玄関に飛び込むやいなや、家の奥の方に向かって叫ぶ。用心のため、今後はきちんと毎回鍵をかけておくようにしなければ――そう思って振り返り、チェーンも含めた鍵をしっかりかけながら、理音は。  家の中から、物音が殆どしない事に気づかされた。 「……アオ?」  胸騒ぎがする。今の時間に、彼が眠っているということは殆どないはずである。そもそも毎朝理音より早く起きて、理音より後に寝るという甲斐甲斐しいことを当然のように続けていたアオだ。理音が帰る前に寝てしまうのは少々考えにくい。  嫌な予感に、靴を慌てて脱ぎ捨てる理音。こういう時、広すぎる家が恨めしい。 「おい、アオ?どうした、帰ったぞ?まさかいないのか?」  もしや、あのエスメアの仲間が、自宅までたどり着いてアオを連れ去った後なのではないか――最悪の想像は、幸いにして風呂場から聞こえた微かな物音に否定されることになった。  洗面所では、綺麗に畳まれた理音の子供の頃の服が、脱衣カゴに入っている。しかし、風呂場のドアは開け放たれたまま。何かがおかしい。 「……アオ!?」  そして、理音は見つけるのである。  風呂場の床に飛び散った、鏡の破片と――その破片で切ったのであろう血だらけの手を握り締め、ガタガタと全裸で震えて座り込んでいる、アオの姿を。
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