<第十六話~抱きしめる腕の中に~>

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「ほら、アオ。落ち着け、何があった?」  鏡の破片を洗面器を使って避けつつ、アオに白いバスタオルを被せて身体を隠してやる。 「大丈夫だから、な。俺、傍にいるし」  アオの全身から、パニックが伝わってくる。同時に恐怖と――自分自身への強い嫌悪感だ。アオががくがくと震えながら、やっとといった様子で血の気の引いた唇を開く。 「……た、だろう……?」 「ん?」 「わ、私の、姿……見た、だろう?」  あ、これはやらかしたやつでは。理音は再び固まってしまう。裸をまじまじと見てしまったことを責められたのかと思ったのだ。確かに、人間とは違う身体にちょっぴり興味を持ってしまったのは事実である。が、断じておかしな意味ではないのだ、と弁解したい気持ちでいっぱいだった。  理音にとってアオは“ほっとけない子供”の印象が強いわけで。ゆえに全くそういう対象だとは思ってないのだ、とそう言いたくなったのだが――アオは、全く別の意味の言葉を告げた。 「鏡、見たくない……醜い……」 「え?」 「自分の姿、嫌い、なんだ。こんな、こんな醜くて汚いものは見たことが、ない……っ!見たくない、見たくない……!!」  何を言っているのだろう、とあっけに取られる理音。醜いどころか、アオの容姿は十二分に可愛らしい部類だと思うのだが。裸も、まるで人形のように綺麗だなという印象しか受けないものである。  それがどうして、醜いだの汚いだのということになるのか――と思ってしまった時。理音が思い出してしまったのは、いつか見たテレビ番組の内容だった。事実かどうかわからないが、聞いたことはあるのである。過剰に自分の容姿を否定するような人間は――過去に酷い暴力や虐待を受けたことがある人間に多いのだ、と。 「お前、ひょっとして……記憶が、戻ったのか?」  エスメアの話から察しても、アオが何か訳ありであることは明白である。彼の認識がそのそも“ファラビア王国最優先!ファラビア王国の平和は銀河の平和!”みたいな狂信的なところがあったため一概に信用することはできないが――それでもエスメアの認識では、アオが銀河を征服しようとした大罪人になっているのは間違いのないことである。  そして、自分を寵愛していたはずの女王様から逃げ出した。ファラビアでは、女王陛下の夫になる以上の名誉などないと言われているにも関わらず脱走し、二つの宝を持ち逃げしたとされている。  それが事実なら、何か理由があったのは間違いない。それこそ、余程ファラビアで酷い目に遭わされたとしたら納得がいくのだ。そもそも彼の故郷が焼け野原になっているらしい、という時点でどうにも話がおかしいのである。
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