<第二十二話~女王の夫という名の~>

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「でも、そうではなかったのですね。……ベティはただ、貴方がたに脅迫されていただけだった。レジスタンスの仲間を殺すと言われて!それを私に隠してきた!」 「じょ、女王陛下、それは……」 「言い訳など聞きたくありません!しかもベティは、研究職に就いていると言いながら実際は実験台に近いような扱いを何年も受けていた。その結果、何度もベティが自殺未遂を起こしていたこと、ベティの仲間のレジスタンス達が彼を取り戻そうと脱走したことがあったこと……私は何も知らずに、彼が夫になることを承諾してくれたと喜んでいたのです。とんだ道化ではありませんか!」  どうして、自分は何も知ろうとしなかったのだろう。仕事が終わって自分のところに帰ってくるロックハートは、いつも疲弊しきった顔をしていたというのに。  何よりも信じられないことは。ロックハートの仲間であり、彼を拘束する人質として扱われていたレジスタンス達が――重労働に課せられた挙句、全員とっくの昔に殺されていたということである。 「仲間を人質に取っておきながら、その仲間はとうに殺していた。……ベティがそれを知らされて、どれほど傷ついたことか……!」  彼が、どういう経緯でその真実を知ってしまったのかはわからない。ただ、ずっとよりどころにしてきたものが粉々に壊された苦しみは、とてもリアナには想像できぬものである。 「恐れながら申し上げます、女王陛下!」  その言葉に、ルインが頭を地面にこすりつけん勢いで下げた。 「ベティ・ロックハートの仲間達は、労働から脱走したのみならず……看守達数名に危害を加え、ロックハートを拉致しようと画策しました。野放しにしては他の者達に危険が及ぶと判断し、その場で射殺したのでございます……!」 「そうなるように仕向けたのは貴方達ではありませんか!毎日三時間しか眠らせず、残りの時間は全て立ったまま重労働に課した上……彼らのリーダーが人間としての尊厳を貶められるような扱いを受けている!それを知って、大切な者を救うべく動こうとすることの何がおかしいのす?私が最初に彼らに約束したような、通常の労働とまともな環境を提供していればこのようなことにはならなかったのではありませんか!?」  今ならわかる。本当は、わかっている。大罪人達の罪を実質無罪放免にし、通常の労働だけで済ませるなど――そんなこと、王族貴族達も世論もけして納得しなかったであろうことは。お飾りの女王でしかなかったリアナに、彼らを説得できるほどの根拠も提示できなければ、それができる力もなかったであろうということが。  けれど、だからといって――そもそもの原因が、人を人とも思わぬ階級制度と重税、理不尽にロックハートの故郷を焼き払ったテラの王族達にあるということを忘れてはならないのである。
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