<第二十二話~女王の夫という名の~>

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「そもそもです。……ファラビア・テラはかつてベティの惑星の民を皆殺しにしたばかりか……ベティにあのような惨たらしい拷問を行った。あのような真似を受けてどうして、私達テラの惑星の王族を許すことなどできるでしょうか……?」  本当に、自分は一体彼の――何を見てきたというのだろう。  彼が王宮で働くようになり、やがて夫として傍にいることとなり。ひそかに憧れていた存在と一緒になれることを喜んでいた自分はどれほど間抜けで、残酷な仕打ちをしていたことか。夫になることを承諾して貰えた時点で、自分達は彼に許されたのだとばかり思っていたのである。  彼はどんな想いで、リアナの傍にいたのだろう。リアナが笑いかけるたび、彼に笑って欲しいと願うたび――寂しそうな眼をする理由を、どうして自分は追求しようとしなかったのか。そうする勇気を持つことができなかったのか。 「しかも、彼が私の夫として選ばれた理由は、彼が優秀な科学者として……功績を認められたからではなかった。それは私に対して語られただけの方便だった、そうですね?」  強い声で糾弾しても、目の前の軍人達は答えない。答えられないのだろう――特にエスメアの方は、リアナのことを現人神のごとく崇拝していたから尚更だ。  この国の王家は本来、いつも気高い身分の者のうち特に優秀な者から伴侶を選ぶのがしきたりとなっている。父の場合も、結婚した相手の女性は再従姉妹であったし、祖父に至っては実の妹と婚姻したのではなかっただろうか。  近親婚が当たり前であるのは、宗教上の理由から。王家は神の子孫であり、その強い力を高めていくことがファラビア家の繁栄に繋がると人々が信じてきたからにほかならない。そしてそんな王家で、異星人の伴侶を許されぬなど前代未聞であったはず。それなのに、どうして自分にロックハートがあてがわれることになったのか。よくよく考えれば今でも彼の世間での認識は“銀河を支配しようとした大罪人”であるはず。そんな相手を女王が夫にするなど、世間体が良いとは到底思えない。  それでも、それ以外の選択肢がなかったとしたら、その理由は。 「近親婚を繰り返しすぎた王家の遺伝子には、異常が発生していた。そしてその子孫である私の身体にも」  先代王である父に産まれた娘は、リアナ一人のみ。それは父が若くして逝去したからというのもあるが、不妊治療をしなければ子供一人作ることができなかったという事情もあるのである。  そして、父の兄弟達は全て流行り病で死んでいる。今、王家の正統な血統者はリアナ一人しかおらず――この惑星の民達は殆どがファラビア教の信者。神の血を引く者が存在し、国を導かなければこの惑星に未来はないと本気で信じている者ばかりだ。  つまり。 「私は今年で十四歳になりました。ですが、未だに生理が来ない。卵子が全くない。子宮の形にも異常があって、妊娠できたところでそれを継続することはまず不可能だとされている……そうでしょう?ですが、貴方達は私の代でファラビアの神の血が途絶えることが耐えられなかった」  これが、答えだ。残酷すぎる、この世界の。 「ベティを選んだのは、そのためだったのですね。彼がガイアの民の唯一の生き残りであり……誰とでも子供を作ることのできる種族であったから」
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