<第二十三話~隣の幸福~>

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「お待たせしました、ソースカツ丼です」  このタイミングで、にこにこ顔のお姉さんが注文したソースカツ丼を持ってきてくれる。大盛りごはんに、これでもかとのっかったキャベツ、どどーんと主張するソースカツ。福島でカツ丼といったらまずこれ、と名前が上がる名物の一つだ。アオが目をまんまるにして、まじまじと丼とその中身を観察している。 「お、大きい……理音これ、朝から食べられるものなのか?」 「食べる!成人男性ナメんなよ、これくらいは食べられるってんだ!あ、お姉さん取り皿一つおねがいしま!」 「はーい」  福島県に来たら絶対食べたかったのである。とにかく容赦ないまでにソースにひったひた、キャベツ大盛りさっくさく!テレビで以前紹介されていたことがあったのだが、どうせ食べに行くことなどできないと諦めていたのである。なんせ理音は、人ごみに入ることが殆どできない。アオと手を繋いできたからこそ、ここまでさほど疲れることもなく旅行に来ることができたのだ。  店員のお姉さんが持ってきてくれた小皿に、アオの分を取り分ける。カツひときれ、御飯一口、キャベツ少しが精々だろう。今晩はお祭りでめいっぱいはしゃぐ予定である。美味しいものを売っているお店もいろいろあることだろう。そこでお腹いっぱいで何も食べられませんでした、その方が可哀想だ。  過去に色々あった理音でも、食事は人生の楽しみだとは思っている。家に無事帰ることができたなら、アオを連れてスーパーに行くのも悪くないかもしれない。アオが大好きな卵焼きも含め、もっといっぱい作って食べさせてやりたいと思う。 「……しょっぱいのかと思ってたら、意外と甘いんだな」  一口カツと御飯を口に運んで、アオがまじまじと感想を述べる。 「分厚い肉なのに、ソースが甘いからか思ったほど重くない……」 「だよな。しっかり味ついてるけど、濃すぎてきついーってこともないよな。ていうかしゃりしゃりキャベツとの相性抜群すぎね?」  理音ががつがつとはしたなくカツ丼を消費していく横で、アオはとてもゆっくり丁寧に小皿の中身を平らげていく。やがて視線を感じて見れば、アオが小さく笑みを浮かべてこちらを見ていた。 「理音、口数が増えたな」 「え」 「前髪、もう少し切った方がいいと思う。せっかく綺麗な顔をしているのに勿体無い。それではとても暗い性格に見えてしまうんじゃないか?理音はこんなに面倒見がよくて活動的で、明るい性格なのに」  それは完全に初めて言われたこと――というか、理音にとっては己が思っていた性格と真逆の言葉だった。顔が綺麗、と言われたのだって完全に初めてである。
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