<第二十六話~花火と告白~>

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<第二十六話~花火と告白~>

 何もかも覚悟を決められたわけではない。  ただ、このままでは嫌だと思ったのだ。このままではアオを騙しているようで。勝手に彼の心を覗き続けて、それでいてこんなにも友愛を向けてくれる彼に対して。  この幸せすぎる逃避行は、いつか必ず終わりを迎える。アオが記憶を取り戻すのが早いか、テラの連中がアオを探しに此処までたどり着くのが早いかはわからないが。  確実に、これはいつか必ず終わる夢だ。きっとそんなことはアオもわかっている。  それでもずっと孤独で、心から楽しいと思えることなど何も知らずに育ってきた理音が初めて、心許せる相手と時間に出会えたのである。その生まれて初めての友達に、少しでも誠実でありたいと願うようになるのは――なんらおかしなことではあるまい。  ただ。 『……理音は、本当に自分の作品に、仕事に一途なんだな。機構戦士の仕事が表に出なかったのは、本当に残念だったことだと思う。ただ……』 ――わかってる。臆病で、卑怯だよな俺。 『その“シルラ”というキャラクターは、嬉しかったんじゃないだろうか。理音ほど一生懸命に世界を築いて、自分を磨いてくれる人に描いて貰えたのだから。他のキャラクターよりもきっと報われたと、私だったらそう思う』  力のことを告白しようと思ったきっかけが。彼が“自分を見捨てない”と確信したからであるなんて――本当に臆病で情けないことだとは思う。  アオが来てくれて、想いを拾い上げてくれたから。もう、機構戦士エルガードがポシャッて腹が立っていたことも、水に流せてしまえそうな気がするのだ。理音が何に一番憤り、悲しんでいたのか。例の企業の連中は一ミリもわかってくれなかったことを、アオはあっさりと見抜いて理解してくれた。  なんだか、もう。それだけで救われたと、そう思えたのだ。それだけでもあの時間は、自分が描いたシルラのキャラクターは、きっと無意味なものではなかったはずだ、と。 「前向いて歩けよアオー!転ぶぞ?」  アオの手をしっかりと握って、人が溢れる道を歩き続ける。雑踏の欲望が、全く流れ込んでこないわけではない。しかしそれはいつもと比べて遥かに小さな声で、殆ど気にならないレベルのものだった。  繋いだ手を通じて伝わってくるのは、ひたすらワクワクしているアオの気持ちばかりである。さっきやった射的が本当に楽しかったのだろう。故郷で銃を撃ったことのあるというアオは、コツを掴めば射的も非常に上手かった。お土産用の袋の中は、ポッキーとプリッツ、グミといった細々したお菓子でいっぱいになっている。絶対にアオ一人で食べきれないことは確実な量だ。  そして、さらに今少年の手元には、赤々と輝く林檎飴が。どんな味がするのかも気になるが、それ以上にキラキラした見た目が心底気に入ったらしい彼は、さっきからまだビニールで包装されたままの、手元の林檎飴に釘付けである。お陰で足元が疎かになってばかりいる。
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