<第二十七話~繋ぐ手の真実~>

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<第二十七話~繋ぐ手の真実~>

 誰だって、隠しておきたい秘密はあるものだ。  相手の心の奥の奥までは見えないからこそ、円滑な人間関係が築けることも少なくない。何故ならどれだけ親しい相手であろうと、相手に不満を持たないことなどないだろうし――特に、敵意や害意、嫉妬心を抱いてそれを必死に押し隠していることも少なくないからである。  理音の能力は、そういった人が当然のように隠しておきたいことを、隠しておけるはずのことを暴いてしまう能力だった。  妙に勘が良い上、敵意に敏感。特に人が隠しているものを見つけてしまうこともしばしばあるような少年が――奇妙な力を持っているかもしれないと悟られるのは、自明の理であったことだろう。  今でも保育士不足と保育園不足は問題になっているが、当時はそれに輪をかけて酷いものだったのである。まず保育園を立てるために、周辺住民の理解が得られない。立てられたところで、外で少し遊ばせると煩いと苦情が来て子供達に健全な外遊びをさせてやれなくなる。少し子供が転んで怪我をしただけで、モンスターペアレンツが飛び込んできてガミガミ言うこともしばしば。過酷な環境で残業も多いのに、給料は上がらず食べていくのに苦労する保育士は後を絶たず――この状況では、子供を保育園に入れてあげられない親が増えるのも仕方のないことではあっただろう。  後で聞いた話が大半ではあるが。理音も、そんな保育園に入れて貰えなかった子供の一人であった。理由は簡単、両親が二人共健在で、父親の当時の給料がそれなりに高かったから。結果、短時間しか預かって貰えない幼稚園に入れるだけで手一杯になり、自分の時間がなかなか作れない母親は随分とイラついていたらしい。その、やっと入れることができた幼稚園で、理音が問題ばかり起こすから尚更である。  幼稚園といえど、保育士達の仕事が過酷であることに変わりはない。子供が好きで保育士になった筈の彼女達でさえ、実際はその過酷さと理不尽さに物申したくなることも少なくなかったことだろう。子供が好きであったはずなのに、思い通り動いてくれない子供にイライラすることがある。それを一体誰が責められるのか。理音はそういうものをすぐに察知して、何でもかんでも言葉と態度にしてしまっていたのである。  理音が気味悪がられ、保育士でさえ腫れ物を触るように扱うようになり。母親が、保育士から来るクレームじみた注文に苛立つようになるのは、どうにもならないことであったに違いない。
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