<第八話~アオの事情~>

1/4
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ

<第八話~アオの事情~>

 アオいわく、非常に昔のことは逆によく覚えているのだという。  彼はイクス・ガイアという惑星で科学者として働いていたというのだ。一体いくつから、と聞けばなんと十二歳からだという。理音はひっくりかえった。十二歳といえば、自分達の感覚からするとまだ義務教育の範疇ではないか。 「十二歳って、学校は?」 「行っていないな。私達の義務教育は初等部まで。中等部以降は自由進学ということになっている。中等部以上の卒業検定は仕事は、小卒で仕事をしながら受けた」 「おいおいおい……」  小卒で科学者って。というか中等部以上という言い方からして、この様子だと早々に大検も受けたということになるのではなかろうか。もしや目の前のこの少年、いわゆる秀才や天才と呼ばれる類か? 「過去のことはよく覚えているのに、私自身の名前だけすっぽり抜けているのも奇妙な話なのだがな。……まあとにかく、私が科学者になった原因は簡単なことだ。母が同じく科学者であったからだな。ちなみに私と母は生き写しかと思うくらいに似ていたらしい。違うところといえば、母の酒癖が悪くて私より気性が荒かったことだ、と周囲の人間が語ってくれた。おかげさまで、私はとにかく周りから酒を遠ざけられた記憶しかないな。どうにもパーティともなると無礼講で未成年に飲ませたがる輩が少なくなかったものだから」  なんだろう、ものすごく親近感が沸くというか、地球とほとんど変わらないというか。理音は苦笑するしかない。未成年の飲酒も無理強いもダメ、絶対。それなのに先輩に勧められると断れない、というのは日本の悪習であると思うのだけども。 「母は幼いうちに交通事故で亡くなったが、それでも私が不幸だと思ったことは一度もなかった。父親達が非常に面倒をよく見てくれたし、良き仲間にも恵まれたしな」 「父親……達?」 「ああ、言い忘れていた。地球では、親と呼ばれる存在は一人ずつしか存在しないのが普通なのだったか。私達は違う。腹を痛めて子を産む母は一人でも、父親に該当する人間は複数存在することもままある。同時に、地球人のような性的交渉も行う必要がない。私達は、他人の体液を一定量体内に取り込むだけで新たな命を宿すことができる種族でな、それこそ血液や唾液でもいいから、キスや注射で十分事足りるのだ。ゆえに性欲というものもない。私達はこの行為を遺伝子交換と読んでいる。そして、子供は母親の方の血をより濃く引く傾向にある。母は魔導士としても科学者としても優秀であったため、とにかく若いうちから遺伝子交換のパートナーになってほしいとひっぱりだこであったらしい」 「……ってことは、もしかして子供を作る相手ってのは、恋愛対象だけとは限らなかったりする?」 「察しがいいな、その通りだ。私達は恋愛という概念が希薄だ。というより、優秀な人間を選んでパートナーにして子供を作るのが当たり前であるため、その相手は“優秀で信頼ができる相手”ならば友人だろうと仲間だろうと関係がないわけだな。恋仲同士、相手だけが絶対と夫婦関係だけで子供を作る家族もいないわけではなかったが」 「へえ……」  もしかして、地球のような生殖形態の惑星はそんなに多くなかったりするのだろうか。非常に興味深い話ではあるが。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!