<第九話~静かに、魔の手は近づく~>

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<第九話~静かに、魔の手は近づく~>

 墜落現場は、うまくカモフラージュされていたようだった。ルインが電子バリアを解除すると、その途端雑木林には黒焦げになった小型宇宙船が現れる。 「ファラビア・ライズの小型輸送船で間違いありませんね。王宮から強奪されたものと完全に型が一致します」  資料のデータを表示させながら、エスメアが苦い顔をする。 「しかし、まさか地球に流れ着いているとは予想していませんでした。それも夏の北半球とは。……ガイア人は、暑い気候が苦手だったと記憶しているのですけども」 「そうだな。ロックハートの体質を鑑みるなら、地球に来るにしてももう少し寒い地域を選ぶのが普通だ。……恐らく航行不能になって、陸地に不時着するだけでやっとだったということだろう」 「仲までこんがり焼けてしまっていますよ。今のところ遺体は見つかっていませんが、この状態でロックハートは生きているのでしょうか。万が一死んでしまっていたら、その時は……」  考えたくもない、と聡明な部下は言葉を詰まらせる。ルインはこじ開けられた宇宙船の中を再度確認した。ファラビア・ライズというのは輸送船ではあるものの、時には宇宙戦艦の護衛艦隊に同行して補給を担うこともある頑丈な船だ。小型なわりに多くの備蓄を積むことができ、小回りがきき、それなりの速度も出る。反面操作は少々難解で、一般の宇宙船操舵免許を持っているだけの人間では運転できないような仕組みになっている。  脱出ポッドが使われた形跡は、ない。それだけ見れば、ロックハートの生存は絶望的であるように見えるが。 「これだけ中まで焦げていて遺体がないというのは奇妙だと思わんか?」  積荷の一部は焼け焦げた状態で残っているが、積載量を考えるなら残された量はかなり少ない。 「これがロックハートでなかったなら、私も遺体は跡形もなく燃え尽きたと思うところなのだがな。奴は、ガイアの最後の生き残りだ。それも、かつてガイアの英雄と呼ばれた最強の魔導師だぞ」 「申し訳ありませんが、そのあたりの知識が私には……なんせ、私が産まれるよりも昔の話ですので」 「仕方ないさ。奴は時空転移装置で二百年時を超えて生き残ったからな。まだ若いお前が知らないのも無理はない。まあ、私も産まれた頃の事だから詳しくないんだが」  それでも、自分はあのロックハートという少年のことをよく知っているのだ、と心の中で呟くルイン。  ベティ・ロックハート。ガイアの生き残りにして、最強の魔導師であり、最高指導者と呼ばれた存在。若き天才科学者であり、イクスの惑星では数々の論文を発表して受賞してきた逸材であるとされている。  とはいえ、ガイアの星の科学技術は、地球には優れどもテラの惑星と比べれば大きく劣るのも事実。彼らの本当の脅威は圧倒的な魔導の力の方であることは周知の事実である。
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