<第二十話~絵の中の聲~>

1/4
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ

<第二十話~絵の中の聲~>

 正直なところ、アオにとって不安がないと言えば嘘になる。  理音はお金はあると言ったが、多分それは彼が一人暮らしで持ち家があり、ローンを支払う必要がないからという理由ではなかろうか。イラストの仕事がどれだけ儲かるものなのかはわからないが、彼の仕上げる速度を見ているとそこまで大量に受注しているようには見えない。本当にその状況で、一気に遠出するような費用など捻出できるものなのだろうか。  だが、アオのそんな心配をよそに、理音はうきうきと身支度を開始している。出かける前にアオの服も買いに行かないとな!と言ってくれた。確かにダボダボの理音の服で外に出かけるのは正直目立つだろう。この時期に、フードつきのパーカーのようなものがどれくらい売っているのかが怪しいところではあるけれど――首まですっぽり覆わなければ、服の中に魔法で冷房をかけて暑さをやり過ごすということができないのだ。  加えて、アオの容姿の問題がある。少なくとも、地球人だと思って貰わないと厳しいものがあるだろう。結論として、化粧で肌の色を誤魔化すのは現実的ではなく、それならば白すぎる肌はそのままにしてアルビノのふりをした方がいいのではいか?という結論に達したのだった。  アルビノにもいろいろあるが、肌の色素が極端にないせい、ということにすれば紫外線に当たらないようにフードをすっぽり被っている理由も説明しやすい。彼らの症状ならば、あまり日光に当たらない方がいいとされる場合が多いからだ。ただ、髪の色と眼の色はこのままでは言い訳できないので、そこはウィッグとカラーコンタクトでなんとかするものとする。真っ白なカツラと灰色のコンタクトをつければ、恐らく問題なくやり過ごせるだろうとのことだった。 ――私のことは、いいのだけど……。  お茶を持っていくためにちらりと踏み込んだことはあるが。こうしてまじまじと、理音の部屋を観察したのは初めてのことだったりする。  一見するとアニメ好きにも見られそうな、アニメやゲームのポスター等が貼られまくった壁。きっと、理音が今まで手がけた仕事の成果なのだろう。  純粋に凄いと思う。彼は“自分の力など大したことない”と謙遜していたようだが――そもそもどこかの企業に所属している様子もないフリーのイラストレーターが、安定して食えるだけ稼げるほど仕事が来るという時点で十二分に“普通ではない”のではなかろうか。確かに彼は一人暮らしで、養わなければならない家族などいなかったように見える。でも、一人暮らしでも食っていくならばそれ相応の稼ぎが必要であることは間違いない。しかも、理音は水道代も電気代も特別気にしている様子がないのだ。ひとりで生きるなら全く不自由していなかった、というのは明白である。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!