<第二十一話~呑気な二人旅~>

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<第二十一話~呑気な二人旅~>

 少々強行軍にはなるが。その日はアオの洋服等だけ急いで買いに行った後、睡眠時間を削って朝一で家を出発することになった。それはファラビア・テラの連中がいつ自分達の居場所を突き止めてくるかわからないから、というのが最大の理由だが――朝方の早い時間に出発すれば暑さが苦手なアオの負担にならないというのも理由の一つである。  最寄り駅から埼京線に乗り、まずは大宮駅まで向かうことにする。理音からすれば人の少ない平日の早い時間に動けるというのは別の意味でも有難いことであった。結局アオに己の方の事情は明かせないままになっているのだから、尚更だ。  ここでアオに嫌われたら、想像以上にショックを受けることは目に見えている。彼はそう簡単に人を見捨てるような存在ではないとは思うが、いかんせん信じて裏切られてきた数が多すぎるのだ。彼はこんなに信頼を傾けてくれているのに――と思うと、本当に申し訳なくて仕方のないことではあるのだけれど。  幸いなのは、アオの手を握って歩いていると――周囲の感情よりもアオの感情の方が伝わってきやすく、すれ違う人々の感情が無意識にシャットアウトされるのかあまり気にならなくなるということだろうか。これからは可能な限り、アオと手を繋いで歩かせて貰おうと思う理音である。 「そういや、近いわりに大宮ってそんなに来たことなかったな……」  埼京線に揺られることおおよそ三十分ばかり。仕事でどうしても来なければならなかった時はあったが、遊び目的で隣県まで来たことはない。大宮駅というのは路線の本数が日本全ての駅の中でもトップ3に入る大きな駅である。構造がもう少し複雑であったら迷子になっていたところだ。 「私の故郷でも、ここまで大きい駅はそんなに多くないな。残念ながら惣菜屋などはこの時間だと殆どまだ開いていないようだが……」 「早いところでも七時過ぎないと開いてないっぽいもんな。しょうがない。現地着いてからコンビニで何か飯でも買うか」 「それはいいんだが。結局、理音は何処に向かおうとしているんだ?大宮が終着地点というわけではないのだろう?」  シャッターがしまっているパン屋などを残念そうに見つめながらアオが言う。彼がきょろきょろと動くたび、真っ白なウィッグが揺れてなんだか不思議な気分だ。真っ白な髪に灰色の眼になったアオは随分印象が変わってくるものである。その動作も表情も、普段の彼となんら変わらないから尚更に。
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