12人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「──なぁ、琴胡」
「はい」
「前に出来た事が出来なくなったら、どうする?」
「私は足掻けるだけ足掻きますよ。最近の先生みたいに」
僕が……足掻いていた?
そう言われてみれば、初めて我武者羅に努力というものをしてみたのかもしれない。
兄弟の境遇に同情したのもある。
このままじゃダメだという思いがあったのもある。
だけど、それだけではない。
諦めそうになる僕を、琴胡が励まし続けてくれたからじゃないか?
「──……そうか……」
「どうしました?」
「僕が努力出来たのは、琴胡のおかげかもしれない」
「いえいえそんな。恐れ多いですよ」
「なぁ、琴胡」
「はい」
「図々しいお願いだけど、これからもずっと一緒に居てくれないか?」
「え!?」
琴胡の驚きに、逆に驚いてしまう。
「先生……それってプロポーズですか?」
恥ずかしそうにする琴胡の言葉は、ゆっくりと僕の脳内に染みこんでいって──。
「えっ? いや、そういう事じゃ──」
慌てて否定するも──ふと、思った。
「いや、待てよ──そういう事なのかもしれない」
「……え!?」
「僕は琴胡にずっと一緒に居てほしいと──」
「へ!? ちょちょ、ちょっと待ってください! う、嬉しいですよ!? 嬉しいですけど、まだ早いです! それは二人とも一人前になってからで……!」
手をバタバタさせる琴胡に、僕は考え込む。
一人前。そうだ。僕はまだまだ半人前だ。
弱点だって克服したわけじゃない。
でも、だからこそ、頑張るんじゃないか。
頑張り方が分からなければ──そうだ、足掻けばいいんだ。
「そうだな。その為にも帰って練習だな」
「は、はい! 先生!」
琴胡は、満面の笑みで頷いた。
とうに真っ暗になった帰り道。歩きながら僕は考える。
きっといつかまた、赤いシャボン玉だって吹けるようになる。
なぜなら、僕は今、この時からでも努力できる事を知ったから。
みっともなくたって、自分の出来る事、やりたい事の為に足掻けると分かったから。
努力に、施行期限なんてないんだ。
最初のコメントを投稿しよう!