2/3
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「──なぁ、琴胡」 「はい」 「前に出来た事が出来なくなったら、どうする?」 「私は足掻けるだけ足掻きますよ。最近の先生みたいに」  僕が……足掻いていた?  そう言われてみれば、初めて我武者羅に努力というものをしてみたのかもしれない。  兄弟の境遇に同情したのもある。  このままじゃダメだという思いがあったのもある。  だけど、それだけではない。  諦めそうになる僕を、琴胡が励まし続けてくれたからじゃないか? 「──……そうか……」 「どうしました?」 「僕が努力出来たのは、琴胡のおかげかもしれない」 「いえいえそんな。恐れ多いですよ」 「なぁ、琴胡」 「はい」 「図々しいお願いだけど、これからもずっと一緒に居てくれないか?」 「え!?」  琴胡の驚きに、逆に驚いてしまう。 「先生……それってプロポーズですか?」  恥ずかしそうにする琴胡の言葉は、ゆっくりと僕の脳内に染みこんでいって──。 「えっ? いや、そういう事じゃ──」  慌てて否定するも──ふと、思った。 「いや、待てよ──そういう事なのかもしれない」 「……え!?」 「僕は琴胡にずっと一緒に居てほしいと──」 「へ!? ちょちょ、ちょっと待ってください! う、嬉しいですよ!? 嬉しいですけど、まだ早いです! それは二人とも一人前になってからで……!」  手をバタバタさせる琴胡に、僕は考え込む。  一人前。そうだ。僕はまだまだ半人前だ。  弱点だって克服したわけじゃない。  でも、だからこそ、頑張るんじゃないか。  頑張り方が分からなければ──そうだ、足掻けばいいんだ。 「そうだな。その為にも帰って練習だな」 「は、はい! 先生!」  琴胡は、満面の笑みで頷いた。  とうに真っ暗になった帰り道。歩きながら僕は考える。  きっといつかまた、赤いシャボン玉だって吹けるようになる。  なぜなら、僕は今、この時からでも努力できる事を知ったから。  みっともなくたって、自分の出来る事、やりたい事の為に足掻けると分かったから。  努力に、施行期限なんてないんだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!