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「ところで先生。聞きそびれてた事があるんですが」
「ん?」
「何で『赤』だけ作れないんですか?」
「──……う……」
「ダメですよ、ここまで来て隠し事は」
「……っ、実は……。小さい頃、営業で牧場に行った時に……」
「はい」
「牛の放牧地の前で、赤いシャボン玉を吹いたら……」
「…………」
「興奮した牛が突進してきて……。怖くて……それから──」
「……は!?」
琴胡は口をあんぐりと開けてキョトンとして──それから大声で笑った。
「……だから言いたくなかったんだ。牛だぞ、牛。死ぬかと思った」
「あははは──ごめんなさい。でも……あははは、お腹痛い」
「…………」
笑いの止まらない琴胡を、置いていくようにして足を速める。
「あぁん、待ってください、すみませんでしたって。──でも先生? それって“赤”に反応したんじゃなくて、いきなりいっぱいシャボン玉が出たからびっくりしただけなんじゃ……?」
「え……?」
「だとしたら、先生のトラウマって勘違いですよね──あはははっ。ダメだ、ごめんなさい。でもそういう所が先生らしくて可愛いですよ」
可愛いなんて言われた事と勘違いだったかも知れない事で、僕の顔は一気に熱を帯びた。
きっと夕方のシャボン玉に負けないくらいに顔が真っ赤になっている。……真っ暗でよかった。
安堵する僕の腕に、琴胡が後ろから抱きついてきた。
「……っ!?」
「先生、一緒に頑張りましょうね!」
──他の人には無い力を、僕は持っている。
超能力とか特殊能力とか、所謂異能とか言われる類の物だ。
しかし僕は、世界を救ったり滅ぼしたり物を動かしたりなどという、大きな事を成し遂げる事は出来ない。
だけど、人の心を動かせるようには。
これから、なるのだ。
【end】
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