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帰り道、僕らは日の落ちてゆく川沿いをゆっくりと歩いていた。
「やっぱり、私は先生を尊敬します」
突然そんな事を口にする琴胡に、一瞬目を丸くする。
「そんな、やめてくれ……僕は叶えてやれなかった」
目を伏せる僕の前に琴胡は回り込み、目をじっと見つめてくる。
「それでも、先生頑張ったじゃないですか。あのお兄ちゃんとおばあさんの心を救った」
「大袈裟だよ」
自嘲気味に笑うと、琴胡はすっかり暮れた空を見上げた。
「先生。私、あの家族みたいに先生に救われたんです」
「え?」
「小さい頃、嫌な事が沢山あって──あの時は両親が喧嘩してて、おばあちゃんと家から逃げるように出掛けて。その時連れてってもらった公園で、先生はシャボン玉を吹いてたんです」
ああ、初めて僕を見た時の事か。
「私ももちろん感動したんですけど、おばあちゃんが『綺麗だね』って凄く喜んでて。見上げた表情が、その頃全く見られなかった穏やかなもので。それからです。私も人の心を穏やかにできるような人になりたいって思うようになったのは」
「そんな大層なものじゃ……」
「それからすぐ両親が離婚して、おばあちゃんと一緒に暮らせなくなってしまって。でも、たまに遊びに行くとおばあちゃんはいつもシャボン玉を用意してました。私がシャボン玉で遊ぶような歳じゃなくなっても。──最期、縁側で亡くなっていた時も、傍らにはシャボン玉の容器があったそうです。──先生は、辛かった私と、何よりおばあちゃんの心を救ってくれた恩人なんです」
「…………」
そう言ってもらえるのは嬉しかったが、それはたまたま僕だったってだけで、
今回にしたって、たまたま空が夕焼けだったから──。
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