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私の目は…それを知らない。
そう…たとえば。
黄昏の頃…歩道橋の向うに沈みゆく、夕陽の色。
生花店の店先…咲き誇る、薔薇の色。
線香花火…ちり、ちり、と爆ぜる、炎の色。
そんなものの色を…私は、ずっと、知らないまま。
だって…見えないのだもの。
この目に捉えられることは…無いのだもの。
幼かった、ある日のこと。
真夏の路上…小さな猫の身体…きっと、その色に塗れていて。
燻されたアスファルトの上…その色の水たまり…拡がって…さらに、拡がって…。
その瞬間から…ずっと、ずっと。
私の視界から、私の世界から…その色は、失われたまま。
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