紅蓮の魔女

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 翌日の狩りの間も、ナギとのやり取りが時折り頭をよぎった。  狩りが一人でないとできないなんてことはない。警戒のため、目は多くあった方がいい。こうして枝の葉を()む鹿に近づいて行く時も四方の警戒を怠ってはいけない。獣を狩るつもりが、逆に他の獣の餌食になることも……。そう考えた時、背後でかさりと小さな音がした。  とっさに目をやる。茂みの陰から猪がこちらを見つめていた。目があった瞬間、こちらへ突進して来た。弓を構える余裕なんてない。視界の隅に入った(とちのき)の大木に駆け寄り、跳び上がって太い枝にしがみつく。足にチクチクした痛みを感じながら、枝の上によじ登った。上の枝を掴んで体を引き上げ、猪が跳び上がっても届かない高さの枝にたどり着く。  枝を脚で挟んで下を見下ろすと、猪は木の下に居座り、血走った目でこちらを睨みつけていた。もしかしたらあたしが仕留めた猪の連れ合いかもしれない。でもそんなことにかまってはいられない。あたしは背負っていた弓を取り出し、毒矢をつがえて射た。急所に二発打ち込んだところで猪は倒れた。  木から下りようと右足に体重を掛けたら激痛が走った。痛みをこらえて地面におり、痛いところを見て愕然とした。山袴(やまばかま)と鹿革の(くつ)の間の素肌の部分に何十本もの(とげ)が刺さっている。  おそるおそる(とちのき)の根元を見ると、毒刺草(どくいらくさ)の茂みがあった。あわてて木に登った時に茂みに飛び込み棘をもらってしまったのだった。  毒刺草(どくいらくさ)の毒は強い。患部が腫れ上がりずきずきと痛むだけでなく、高熱が出て数日間は身動きが取れなくなってしまう。動けなくなる前に崖の下の住処に戻らなくては、あたしは痛みをこらえて必死に歩いた。  歩いているうちに寒気が襲って来た。だんだん足に力が入らなくなってくる。崖の下の平地にたどり着いた時には、目の前が暗くなってきた。  何とか横穴の前まで進んだところで、もう一歩も歩けなくなった。あたしは座り込み、地面に体を横たえた。  意識がだんだん遠くなる。ついに意識が途切れる間際、誰かに体を持ち上げられたような感覚がした。  
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