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「あたしたちは散り散りになって逃げた。そして、紅蜥蜴の紋章を隠して生き続けているの」
「愚かなことを」
ナギがつぶやいた。
「仕方ないでしょ。何としても生き延びなきゃ」
「俺が言ったのは村を襲った連中の方だ」
「あの人たちも自分を守るつもりだったんでしょうね。でも、襲った人たちのいた村もそのすぐ後に紅蜥蜴の呪いで滅びたって、風の噂で聞いたわ」
「そうか」
ナギは自分の指先を見つめていた。
「俺も紅蜥蜴の呪いを受けてしまったわけか」
あたしは胸が押しつぶされそうになった。でも、せめてきちんと説明をしないといけない。
「ええ、あなたはあたしの身体に刺さったいくつもの棘を取り除いてくれた。自分の指が棘で傷つくのも厭わずに。きっとあたしの血があなたの身体に入っているはず。見たところ、まだ水ぶくれも出ていないけど、間違いなく呪いは伝播しているわ」
あたしは両手をついてわびた。
「ごめんなさい。あたしが最初から説明していたらこんなことにはならなかったのに」
「それで、俺はどうなる?」
「十のうち九は三年で命を失うわ。もしあなたが村に帰ったら村の人たちも同じことに」
「そうか」
ナギは取り乱すことなく、じっと手のひらを見ていた。
「あたしはあなたの未来を奪ってしまった。そして、今の暮らしも。償いきれるものではないけれど、あたしのできることなら何だってします。言ってちょうだい」
あたしの言葉にナギはゆっくりとこちらを向いた。押し黙ったままあたしを見つめる。
あたしにできることは何かないか、懸命に考えた。そして……
あたしは服を脱ぎ捨てた。
「ナギ、あたしを抱きなさい。あなたの子供を産んであげる。あなたが命を失った後も、あなたの命を引き継ぐもの、紅蜥蜴の呪いに負けない子供を残してあげる」
ナギはあたしをじっと見つめ、立ち上がるとあたしに寄り添い、あたしを抱いた。その身体はとても温かかった。
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