紅蓮の魔女

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 夜が明け、あたしが目を覚ました時、ナギは既に身支度を整え、あたしの狩りの道具を検分していた。 「どうしたの?」 「起きたか。なら、これの使い方を教えてくれ」  弓を持ち上げて、あたしにかざした。 「俺は決めた。きみと一緒に旅に出る」  ナギは腕を引き、弓の弦を引き絞る形を取った。 「十人のうち九人は死ぬと言ったな。俺は生き残る一人になってやる」  話しながら、矢を射る方向を鋭い目つきで睨んでいる。右手の指を開くと、ヒュンという音がして弓が跳ねた。ナギは表情を緩めてあたしを見る。 「それでも、一年間は歩けなくなるんだよな。その間は俺を養ってくれ。歩けなくなる前に一緒に狩りをして食糧を貯め込もうぜ」  胸にこみあげてくるもので、あたしは返事をすることが出来なかった。 「どうした、何だってするって言っていたよな。嫌とは言わせないぜ。それに、俺の子供を産んでくれるんだろ。俺もその子の顔が見たい」 「はい」  あたしはようやく声を絞り出した。  こうして、あたしとナギの新しい旅が始まった。二人で旅をしながら狩りをして、獲物を貯め込んでいく。そして、一年の間、籠るための新たな住居の場所を見つけた。断崖を越えた先にある小さな湖のほとりの森、人の手が入った痕跡はなく、山の幸や水辺の恵みが手に入る場所だった。あたしたちはそこに住居を作り、生活の基盤を固めていった。先のことは分からない。ただ、日々を懸命に生きていくだけだ。            終わり
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