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人里を避けて森の中を進み、獣が多く棲む狩場を見つけたら一時の住処を作って留まり、獣を狩って過ごす。そして辺りの獣を狩りつくしたら、住処を壊して旅立つ。
故郷を離れてからは、あたしはずっとそうして暮らして来た。連れを作ることは無いし、物々交換のために人里に立ち寄る時は手短にすませてすぐに離れる。この地の民たちにとってあたしは災厄そのもの、正体を知られてはならなかった。
山中を歩いてたどり着いた新たな狩場は、東西に並ぶ五つの峰の南側、緩やかな斜面に橡や山毛欅の森が広がる場所だった。
斜面を抉る幾つかの谷筋には渓流が流れていて、周りの斜面にはいたるところに猪が土を掘り返した跡がある。樹木には、鹿が幹を齧って柔らかい皮を食べた跡があり、低い枝は葉を食べつくされていた。
獲物がたくさんいることは間違いない。ここに滞在するかどうか決めるため、あたしは五つの峰のうち真ん中のものに登って行った。中腹から上では背の高い木は少なく、頂上は巨石が顔を出す草地になっていて四方を見回すことができた。
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