紅蓮の魔女

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 次の日から、ナギは毎日のようにあたしの住処にやって来た。干し魚や零余子(むかご)などちょっとした食べ物を持って来て、あたしに旅の話をねだる。その度に追い払っていたが、十日程も続くとさすがに根負けした。しつこく話しかけられているうちに思い出した話もあった。  やって来たナギの呼びかけに顔を上げ、彼の方に向き直る。 「しょうがないわね。そんなに望むなら旅の話をしてあげてもいいわ。でも、条件がある。 旅の話をするのは一日の少しの間だけ、その時以外はここに近づかないこと、話を聞く間もあたしの身体に手が届く範囲に近づかないこと、そして、あたしの後ろには立たないこと」 「わかった。きみのいやがることはしないと約束する」  ナギは二つ返事で条件を受け入れた。  こうしてあたしはナギにこれまでの旅の話をすることになった。もちろん、話しても問題のないものを選んでだった。  毎日、日が暮れかかる頃、ナギは食べ物を持ってやって来る。横穴の前の竈の(まわ)り、あたしは横穴側に座り、ナギは反対側に座る。竈で燃える火で枝に刺した干し肉やナギが持って来た食べ物をあぶり、あたしが旅の話をする。火の通ったものから一緒に食べ、食べ終わったところで話を切り、ナギは村に帰って行く。  いろんな話をした。月に一度だけ陸とつながる島の話、夜になると打ち寄せる波が青白く輝く砂浜の話、一年ごとに植え替えて大きくなった芋をすりつぶして作る食べ物の話、そして獣の骨の形をした石が出てくる崖の話。穀物を噛んで酒を醸す姉と山葡萄を踏みつぶして酒にする妹が暮らす村の話もした。  ナギはどの話も目を輝かせて聞き、時により詳しく知りたいと質問をしてきた。知っている限りを答えたが、知識がなく答えられないこともあった。そんな時でもナギは、話が終わると満ち足りた顔で帰って行った。
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