紅蓮の魔女

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 人とこれほど話をするのは故郷を出て以来のことで、あたしにとっても気持ちを明るくするものだった。それで気分が高揚してしまったのだろうか、ある日帰ろうとしたナギに、破滅を招きかねない言葉を口にしてしまった。 「初めて会った時、お前はあたしの髪をきれいと言ったよね。あたしが言い伝えの紅蓮の魔女じゃないかとは思わなかったの?」  ナギは首を傾げて吟味するようにあたしを眺め、ゆっくりと話し出した。 「紅蓮の魔女の伝説は知っているよ。村のおばば様から何度も聞かされた。海の向こうから魔女がやって来ると言う話だ。宿なしのさすらい人として村に入り、村人に(しるし)を刻んでいくそうだ。篭絡して仲間にしていくと言うことなのかな。そして、紅い蜥蜴が炎に変わって村を焼き尽くすのだと言う。紅い蜥蜴が何を差すかは謎だけど、紅い髪を示唆してはいなかった。でも、伝説は語り手によって少しずつ違ってくるものだ。君の聞いた話では紅い蜥蜴の正体についての説明があったのかい?」  あたしは自分の過ちに気付き、肝を冷やした。藪をつついて蛇を出してしまったのだ。 「あたしの聞いた話……は同じよ。紅い蜥蜴は謎の言葉、それが何かはわからないわ」 ナギは私の言葉で興味を失ったようで、肩をすくめて帰って行った。  一人残ったあたしの胸は苦々しいものでいっぱいになっていた。これまでの旅では、数限りない嘘をついてきた。それは自分を守るために仕方がないと割り切ってきた。嘘をついたことでこんな気持ちになるのは初めてだった。
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