なぜだか きみのほっぺが 赤

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 小学校に入学してすぐの頃、カナコの両親は離婚した。母には他に好きな人がいたと、親戚の誰かが言っていたのを耳にしたことがある。  酒に酔って帰宅する母を、父が怒ることはなかったそうだ。幼い記憶の中に浮かぶのは、酔った母が陽気に叫び散らす姿。黙ったままグラスにビールを注ぎ、ただただ飲み続けていた父の姿。  それでもカナコは母が家にいる間は、ピタッとそばにくっついていた。いつか自分の前からいなくなってしまうのを予感していたように。 「カナコだ!」  男子たちの声が後ろで聞こえた。 「誰もいない家に帰るんだぜ、あいつ」 「今日もご飯はコンビニ弁当ですかー?」  カンタの大きな声も混じっている。近所に響き渡るその声。恥ずかしさに耐えきれなくなり、気づけば急ぎ足になっていた。 「待てよ!」  男子たちのランドセルがガサガサと揺れる音。運動靴がアスファルトを蹴る音。それを感じ取ったカナコは全力で走った。はやく家に帰りたい。家に帰って、ひとりになりたい。願いも虚しく、カナコは男子たちに追いつかれてしまった。
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