なぜだか きみのほっぺが 赤

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「お前、カナコに恨みでもあるのか?」  担任の教師はカンタに尋ねた。 「今日はカナコのお父さんに出てきてもらうから、ちゃんと謝るんだぞ」  無言のまま歩くカンタ。その足取りは重かった。  インターフォンを鳴らすと、玄関に明かりが灯り、中から温厚そうな男性が姿を現した。 「すみません。わざわざお越しいただいて」  カナコの父と思われるその男性は、深々とお辞儀をした。 「こちらこそ、ウチの生徒がカナコさんにご迷惑をおかけいたしまして──」  教師が頭を下げる。気まずさに口をすぼめるだけのカンタ。教師の手がカンタの頭に添えられ、お辞儀を促すように力が込められた。  それを見たカナコの父は、玄関を振り返り、「おーい。カナコー? 先生と友だちが謝りに来てくれてるぞー。出てきなさーい」と声を張り上げた。  しばらくしてカナコが現れた。モジモジしながら、父親の陰に身を潜める。 「この子もちょっとショックを受けたみたいなんです」  カナコの父は話し始めた。 「妻がまだこの家にいた頃に、この子に作ってやった本のしおりでしてね。読書が好きなこの子のためにって。まぁ、適当に画用紙を切っただけのしおりだったんですけど、この子にとっては母親の思い出だったもんですから」  カンタは胸が痛んだ。あんな紙切れに、そんな大切な思い出が詰まっているなんて気づくわけがない。  それを聞いた教師は怒気を含み、カンタに問いかけた。 「なんでそんなバカなことをしたんだ?」  カンタはじっと足元を見つめている。 「おい、聞いてるのか? ちゃんと答えなさい!」 「先生、まぁ、いいじゃないですか。彼も反省してるみたいだし」  カンタは胸の痛みに耐えられなくなった。母親との思い出を奪ってしまった罪悪感。足元に落ちる涙の粒。罪の意識に押し潰されそうになったその瞬間、気づけば大声で叫んでいた。 「僕、カナコさんのことが、好きなんです!」  叫び終えると、カンタはせきを切ったように泣き出した。それは情けないくらい惨めな泣きっぷりだった。止まらない嗚咽。小刻みに震える身体。その場にいる誰もが予想しなかった告白をしてしまった恥ずかしさに、逃げ出したくなった。  涙で霞む視界の先では、カナコの父が微笑んでいる。見上げると教師は苦笑い。運動靴に落ちる涙の粒。  恐る恐るカナコの顔に目をやると、そこには真っ赤なほっぺ。さくらんぼのように染まっている。なんでカナコは頬を赤くしているのだろう。  カナコのその表情を見たカンタは、再び恥ずかしさに襲われ、さらに大きな声をあげて泣いた。
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