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1章 麻生家の朝
『春眠暁を覚えず』とはよく言ったもので、電子音が鳴り響いていても起き上がることができない。
私はベッドから手を伸ばした。サイドテーブルを探るが、目覚まし時計は見つからない。
「ここだよ」
ひょいと後ろから伸びてきた手が止めてくれた。
「あれ、この香り」
伸びてきた手と一緒に微かだが、懐かしい匂いが香る。
「優陽?」
後ろを振り返ろうとしたが、ぎゅっと抱きしめられ動けない。
「ねぇ、ヒナタって誰?」
「誰って……!?」
寝ぼけた頭が覚醒する。そして後ろにいるのが、名を呼んだ人物ではないことに気がついた。
「オレという者がありながら許せない。これはお仕置きだなって、何かエロい響きでいい~!!」
後ろで大喜びしている者の正体は見なくても分かる。こんなことをするのはひとりしかいないのだから。
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