ひんやり店員

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「とりあえず店長を呼んでください」 「仕方ねえな」店員はイライラしながらそう言うと、従業員以外立ち入り禁止のところに入っていった。 店長はすぐにでてきた。首や胸にアイスキャンデーを巻いていた。 「どうもひんやり店長です」僕はこいつじゃだめだと思った。 「何がご不満でしょうか」 僕はそれがだよと言いたかったが、ことを大げさにしたくなかったので勝算は低いが普通に話すことにした。 「こちらの店員が、アイスを普通に売ってくれなくて」 「それはどういうことでしょう?」店長は怪訝そうに言った。 「具体的にいうと、アイスを買うと店員が袋を開けてうなじに当ててしまうのです」 「なんと!彼がそんなことを!すいません。あとで叱っておきます」店長は申し訳なさそうに頭を下げ、振り返って店員を睨みつけた。 「では、お詫びと言ってはなんですがアイスを差し上げます」 「いえ、買わせていただきます」僕はそう言ってアイスを取りに行き、店長に70円と一緒に渡した。店長は袋を開けてうなじに当てた。 「何してるんですか!」 「えっ?」 「えっ?じゃねえよ!それがダメだって言ったんじゃねえか!」 「私はひんやり店長ですよ」店長はなぜか半ギレだった。 「だからなんなんだ!」気づけば僕は大声を出していた。 「警察呼びますよ!」店長が言った。 「なんでお前が!俺が呼ぶ!」僕はすぐに110番を押して電話をかけた。 警察はすぐに来た。何事かと驚いた顔でやってきた警官だが、事情を話すとすぐに眠たそうな顔をした。 「僕じゃどうしていいかわかんないので帰っていいっすか」 「ダメだ、上司に連絡して」 「まあ、はい。わかりました」警官はめんどくそうな顔をしていった。 「もしもし、こちら警官。警視総監ですか?」僕はびくっとした。警視総監といえば全警察のトップだ。 「はい、こちらひんやり警視総監」 「ニセモノだろ!」ぼくは瞬時に言ってしまった。 警官は事件のいきさつを説明した。 「それは、客が悪い。世の中ひんやりさせたもの勝ちだ」警視総監はこれこそ世の定めというように言った。 「何言ってんの?」ぼくはそう言ったが無視された。 「まあ逮捕する必要はないだろう。落ち着かせて帰って貰いなさい」 警視総監との電話はそれで終わった。 「そういうわけだ、落ちついて帰りなさい」 「帰れるかボケ!これで終わったら二度と法律守らねえぞ!」 「そのほうが難しいと思うけどな」 「だれか他のやつに聞いてくれよ。弁護士とかでいいからさ」 「元弁護士だったら知ってる」 「それでいいよ」 「総理大臣だ」 「いや、やっぱいいよ」そう言ったが警官はもう首相に電話をかけていた。 「もしもし、首相官邸です」こんな言葉初めて聞いた。 「僕、警官なんですけど首相いらっしゃいますでしょうか?」 「ああ、今出かけたところだ」 「そうですか」 「あの、首相はひんやりとかしていらっしゃらないですよね」僕は会話に割り込んで聞いた。 「何が言いたいのかな?」電話の向こうの人が怪訝そうに言った。「首相は熱血でひんやりするようなところなどないよ」 「ああ、そうですか。それは良かったです」僕は胸をなでおろした。
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