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「おばあちゃんの家ってのはどこだい?」
「森のずっと奥です。ここからなら歩いて15分くらいです」
「15分か・・・」
オオカミはちょっと考えた。家を探して、おばあちゃんを食べてしまうには、もう少し時間がかかるなと。この娘には花でも摘んでもらって、時間を稼いでもらおうと考え、それを提案しようとした。
「君は偉いね。おじさんにも娘がいてね。どうも君のような可愛い子は他人のようには思えないだよ」
その一言で森の空気が変わった。いや、オオカミは気づいた。この娘の醸し出すオーラが変わったのだ。
「どうかしたかい?」
「何でもないです」
オオカミは知っている。女の何でもないと言う一言は、すでに地雷を踏んでしまっていることを。
娘は完全にメンチを切っている。獲物が放つ眼光ではない。とてつもない憎しみを感じさせるのだ。
転生赤ずきんはオオカミの頭の先から足先まで隅々を見つめた。前世のあの詐欺師を思い出していたのだ。あいつも一見悪そうないで立ちで、話してみると小さいところによく気の遣える男だった。
一人娘がいて、家族思いの良い父親で、妻とは死別で寂しさを背負った男。年上だけど、ほっとけなくて、助けてあげたいと思ってしまった。
ホテルで二人でいるときに不意に姿を消す男。どこにいるかと探して見つけたのはバスルーム。服も脱がずに座り込んで泣いていた。
「どうしたの?」
「何でもないよ」
気丈に笑ってみせた男。それが心配を煽るための演技だなんて疑いもしなかった。
「なんでも言って、力になりたいの」
「でも、君に迷惑がかかるから」
「そんなこと気にする必要なんてないのよ。私はあなたを愛しているんだから」
男は泣きながら打ち明けてくれた。娘が病気だってこと、治療には多額のお金が必要だってことを。以前は娘の留学でお金を渡していたのに、女は疑いもせずにお金を下した。
「使ってしまうと結婚資金がなくなってしまう」
その一言が女の疑念に靄をかけた。本気で結婚を考えてくれている。娘の命と私との関係を同じ重さでとらえて苦悩している。それに愛を感じてしまっていた。どちらにしろ、女のお金を当てにしているってことに、疑問を抱くことすら忘れていた。
男と出会う前は1000万も貯まっていた、通帳の残金は3万を切ってしまった。そして、男との連絡も途絶えた。
それでも結婚詐欺だと思いたくはなかった。男の身に何かあったのではって心配していた。探偵を雇うまで給料日を待ち、探し出した男の会社はペーパーカンパニー。それでもまだ裏切りを受け止められず、突き止めた男の自宅。
そこには死んだはずの妻が生きていて、娘は頭の悪そうな金髪ギャル。怒りに震えて頭の血管が切れた。そこで命が途絶えて、童話赤ずきんの世界へ転生したのだ。
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