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転生赤ずきんはオオカミを見て、前世の詐欺師を重ね合わせ、復讐心を燃え上がらせていた。声を掛けたことを後悔させてやるという決意が眼差しに表れていた。
「あれ! こんなところにお花畑がある。摘んでいったら、きっとおばあちゃんが喜ぶだろうな」
嘘くさいことこの上ない転生赤ずきんの驚きよう。お花畑なんて言うほど花は生えていないし、あれほど怨念こもった瞳を今はキラキラ輝かしていて逆に怖い。
「どれもキレイなお花で迷っちゃうな。これは結構時間かかりそう。10分・・・20分、いや、30分はかかるだろうな」
転生赤ずきんのその言葉にオオカミは戦慄を覚えた。騙そうと考えていた策略そのものだったからだ。この娘は明らかに誘っている。オオカミは自分の魂胆が見抜かれていることを悟った。
きっと罠がある。お腹は減っているけれど、ここは身を引いた方が賢明だと考えをあらためた。転生赤ずきんの満面の笑みがその決断へ導いたのだ。
「お花はいいよね。きっとおばあちゃんも喜ぶよ。じゃあ、おじさんは帰るね」
オオカミはとにかくこの場を離れようと急いでいた。赤ずきんが向かう方角のあえて、逆を選んで歩き始めた。
「オオカミさんちょっと待って」
「どうしたんだいお嬢ちゃん」
「どちらへ行かれるのですか?」
「これから娘に会いに行くんだよ。おじさんの娘も病気で寝込んでいるんだ。だから、急がないとね」
「そうなんでんすか。可哀想に・・・それは心配ですね。でも、おかしいですね」
「何がだい?」
「だって、オオカミさんが向かっている道は、オオカミさんが歩いてきた道だから。帰るって言う表現は違和感を感じます」
「あ~あ、そうだったね。おじさん道を間違えちゃったよ。気づいてくれてありがとうね」
「あら、そうだったんですね。それは良かった。では、おじさんのお家は、私のおばあちゃんの家と同じ方角なんですね」
転生赤ずきんは進路を塞ぐように、オオカミの前に立ちはだかる。行けと言わんばかりにおばあちゃんの家の方角を指し示すと、その表情はやっぱり満面の笑みなのである。
こいつはヤバい奴だと確信したオオカミ。このまま放っておくのも考えものである。わざわざ不安の種を残しておく必要はない。いっそこの場で食べてしまおうかと考えた。
その時である。視界から娘が消えていた。何か擦れる音が聞こえる。固い物なのはわかる。音だけで鋭さを感じる。さらに音が鳴るたびに何かが落ちているのもわかる。
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